大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)4149号 判決

被告人 宋迎煥

〔抄 録〕

一、弁護人論旨第三点に対して、

刑訴法第四八条同規則第四四条によれば、公判調書には「取り調べた証拠の標目及びその取調の順序」を記載しなければならないものであるところ、原審第二回乃至第五回の各公判調書には証拠取調の順序が全然記載されていないのであるから訴訟手続上の法令違背があることは所論の通りであるが、通常記録の書類編綴は取調の順序に従つてなされるものであるから証拠の取調は、記録編綴の順序によつてなされたものと推認することができるばかりでなく、仮に然らざるものがあるとしても、被告人の自白調書を犯罪事実に関する他の証拠の取調前に取り調べた違法が認められる場合であれば格別であるが、原裁判所はその第五回公判期日において被告人の司法警察員及び検事に対する各供述調書、被告人の陳述書を取り調べる前に第二回乃至第四回公判期日に犯罪事実に関する他の証拠を幾多取調べていることが、本件記録によつて明らかであるから、前記公判調書に取り調べた証拠の順序を記載しない違法は未だ判決に影響を及ぼすこと明らかなものと言うことを得ない。論旨は理由がない。

二、被告人論旨中二重裁判の主張部分及び弁護人論旨第一点に対して、

原審記録並びに当審証拠調の結果(特に被告人の軍事占領裁判記録及び収容者身分帳簿)によれば、被告人は昭和二十六年五月七日極東軍司令部サービスコマンド八二三二D陸軍部隊軍事委員会(軍事占領裁判所)で本件と同一事実について重労働監禁一〇月の有罪判決の言渡を受け、同判決は即日確定して同日から東京拘置所川越少年刑務所又は千葉刑務所などで右刑の執行を受け、昭和二七年四月二八日講和条約発効と同時に釈放されたところ、右釈放後直に同一犯罪事実により日本検察当局から逮捕され、引続き勾留本件起訴に至り、被告人は懲役三年の原判決を受けたことが認められる。而して日本国憲法第三九条は同一の犯罪事実につきわが国の憲法による裁判権によつて二重に刑事上の責任を問うことを禁じた趣旨であるところ、軍事占領裁判所は連合国最高司令官によつて設立されたものでその裁判権は同司令官の権限に由来しわが国の裁判権にもとずくものではない。従つて既に軍事占領裁判所の裁判を経た事実について重ねてわが裁判所で処罰することは日本国憲法第三九条に違反するものではない。然しながら軍事占領裁判所は刑法第五条にいわゆる外国の裁判所と目すべきものであり二重処罰の関係において同条但書に該当する場合であるから、裁判所はその認定にかかる犯罪事実について刑を宣告した上、さきに外国裁判所において同一事実について言渡され且執行を受けた刑を考慮して、右宣告刑につき刑の執行を減軽又は免除する旨の言渡をしなければならない。然るに原裁判所は二重処罰に関する事実関係が原審記録上窺知し得られるにかかわらず前記軍事占領裁判所の裁判と同一の犯罪事実を認定して懲役三年の刑を言渡したのみで、刑法第五条但書に従い右刑の執行の減軽又は免除について為すべき判断を何等示していないのであるから、原判決は法令の適用を誤つたもので、右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであり、この点において原判決は破棄を免れない。論旨はいづれも理由がある。

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