東京高等裁判所 昭和27年(う)4164号 判決
被告人 堀口勝蔵
〔抄 録〕
弁護人の控訴の趣意について。
よつて先ず被告人の業務の範囲に関する所論について審按するに、
被告人が昭和二十一年頃からK配電株式会社(昭和二十六年五月一日よりK電力株式会社と改称)のT支店T営業所G出張所T派出所(派出所は電気事業法施行規則第六十九条の散宿所に該当する)にその主任として勤務し受持区域であるT県I郡T村及びS村の両村に於ける電燈線の保安の責任者として之が故障修理(所謂保線)等の業務に従事していたものであることは原判決挙示のYの司法警察員に対する第一回供述調書、被告人の検察官に対する供述調書によつて明らかである。そして、本件事故の原因となつた電線は原判示X方裏にある前示電力会社所有の第三三四号電柱とこれより西北方に約八十七米距つた地点にある原判示標識燈用電柱との間に架せられた架空引込線であることは原判決挙示の証拠により明らかであるから、右引込線に故障があつて事故発生の虞がある場合には、被告人としては直ちに之を修理し、事故の発生を未然に防止すべき義務を有するものであることは前示業務内容に徴し疑を容れない。
所論は前示標識燈用電柱はZがT村漁業組合の代表者として設置したものであつてその所有に属し前示電力会社が所有するものではない。そして本件事故は、右標識燈用電柱の支線が外力により切断された結果右電柱が傾斜し、従つて之に至る引込線が垂下したために起つたものであるから本件事故の責任は右電柱の所有者に於て負担すべきである。電柱の所有者は自己の責任に於て之を保存修理しなければならないのであつて、電力会社は右の如き工作物の保全の責任を負担しないのであるから、かような工作物の故障によつて起つた事故については被告人もまた責任を有しないと主張するから、この点について考えてみるに前示標識燈用電柱が所論のようにZ等の所有物であつてT電力株式会社の所有に属しないことは記録上明らかであるが、しかし右標識燈の如き電気の一般需用の場合に於ては、右標識燈用電柱等の電気工作物の所有権が需用家又は電力会社のいずれに属するかに関係なく右電気工作物の保安の責任は電気事業者たる電力会社に於て負担するものであるから(原判決挙示の電気供給規程17、20参照)本件に於て前示引込線の垂下が所論のように標識燈用電柱の傾斜によるものであつても、右電柱の所有者側に別個の責任が存するか否かはともかくとして、右引込線につき被告人が保安の責任を有することは明らかである。尤も、前示電気供給規程18の(1)によれば需用家はその引込線及び需用場所の電気工作物に異状又は故障がある場合には速かにその旨を電力会社に通知するよう要求されているが、これは電気事業の特異性に基き一般需用家の末端に至る迄常に遺漏なき保安を期することが困難なため、需用家に協力を求めるためのものであり、このことを以て引込線又は電気工作物の故障につき電力会社の責任を解除するものとなし得ないことは勿論である。尚所論は前示標識燈用電柱の取替等は施設の設計を伴うものであり前示T派出所の業務外であるから被告人は本件につき責任を有しないと主張するにつき按ずるに需用家が需用場所の電気工作物に変更、修繕等の工事を施行するには工事着手前電力会社の承認を、本件についていえばその担当者であるG出張所の承認を受けなければならないものであり、そして右承認を得て、需用家自らが、又は需用家の依頼によりその負担に於て会社側が工事を施行するものであることは前示電気供給規程19、(1)、21等に徴し明らかであるが、しかしかかる場合と雖も引込線等電線路の保安の責任は、あくまで派出所の保線係員たる被告人に於て負担するものであることは電気の特異性並びに被告人の前示業務内容に照らし当然のことであり従つて被告人としては右工事の手続を促進するとともに、その間といえども、苟くも引込線の故障等により人畜に危害を及ぼす虞がある場合には、警告、立入禁止、又は送電停止等の方法により危険を防止せねばならぬ筋合であるから、右の所論は採用し得ない。その他原判決に法令違背は存しないからこの点に関する論旨はいずれも理由がない。