東京高等裁判所 昭和27年(う)4267号 判決
被告人 寺田精一
〔抄 録〕
本件記録に顕われた各証拠並びに当審における証人色紙隆義大貫守誠の各供述及び昭和二十五年三月二十五日附食糧庁長官より茨城県知事宛昭和二十四年度産米の供出完遂に伴う農家配給についてと題する書面、同年四月十四日附茨城県農林部長より各市町村長、並びに各地方事務所長宛供出完遂に伴う農家配給についてと題する書面の趣旨を総合すれば、昭和二十四年度の供出完遂に伴う農家配給(以下本件配給と略称する)については、その対象農家は供出を完遂した農家であつて保有食糧に著しく不足を生じたものとせられ、又市町村長は県より市町村別に割当てられた売渡数量に基き、前記対象農家に対しその不足を生じている状況に応じ、当該農家が現に供出した数量を超えない限度において売渡数量を決定してこれを売り渡すべきものと定められていたが、その実施面において供出割当を受けた農家がその割当数量の一部を供出したのみで、その全部を供出しえなかつた場合でも保有食糧が現に不足している農家に対し本件配給をすることは当該市町村長の裁量に委ねられており、又供出割当を受けて供出をしたため保有食糧に不足を来し、食糧配給公団より一般配給を受けるに至つた農家でも、その故を以て本件配給の受配資格を有しないものとはせられなかつたものであること、更に又本件配給に関し各受配者たる農家への売渡数量の決定並びに売渡等の事務は当該市町村長の事務とされていたのであるが、稲敷郡八原村においては、村長は農業調整委員と協議の上、各部落毎に一括した配給数量を決定し当該部落内の各受配者に対する個別的配給数量の決定並びに現物の受渡等の事務は当該部落の農業調整委員に村長より一任したものであること、被告人は右八原村の農業調整委員であつて、村長の右委任に基き被告人の居住部落内の農家に対し本件配給米の割当並びに配給をしたものであることを認めることができる。
しかして本件記録に顕われた各証拠によれば、被告人が昭和二十五年六月より同年七月までの間に起訴状添附一覧表記載(但し荒巻純澄に対する部分を除く)の如く本件主要食糧(いわゆる還元米)の配給をした事実を認めうるのであるが一件記録に徴すれば右一覧表記載の野村伊織、鴻巣はつい、吉田安治、坂本源治郎、川端静雄、鴻巣百助はいずれも昭和二十四年度生米の供出割当を受けその全部又は一部を供出したものであること並びにいずれも当時保有食糧に不足を来していたことが認められるから、同人等の保有食糧に著しく不足を生じたものと認めて、本件配給をすることは村長の裁量に任せられていたものであつて、右受配当時食糧配給公団から一般配給を受けていたからと云つて直ちに本件配給をすることが不正に配給を受けさせたものであると断ずることはできない。その他一件記録を調査するも同人等に対する本件配給が不正に配給を受けさせたものであることを認めるに足る証明は十分でない。故にこの点に関する原審の認定は失当であり原判決は破棄を免れないから当裁判所は刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書に従い原判決を破棄し、当裁判所において、更に判決をすることとする。