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東京高等裁判所 昭和27年(う)4406号 判決 1953年3月31日

控訴人 被告人 高野繁

弁護人 江原綱一 関山忠光

検察官 沢田隆義

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は第一、二審共全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人江原綱一、同関山忠光提出の各控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

弁護人江原綱一の控訴の趣意について。

よつて記録を調査するに原審が昭和二十七年十月十五日証人桜井孝道を尋問した原審第二回公判調書には、同証人に対し偽証の罰を告げたこと及び証言を拒むことができる旨を告げたことの各記載の存しないことは所論の通りであるが、昭和二十七年二月一日施行の改正刑事訴訟規則第四十四条によれば右の各事項は公判調書の必要的記載事項となつていないばかりでなく、同証人の宣誓書が添附されていること、右各事項につき手続違背ありとして被告人又は弁護人から格別異議の申立があつた形跡も存しないことよりすれば、原審に所論の如き違法は存しなかつたものと解するのが相当であり、所論は採用し難く論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 関重夫)

弁護人江原綱一の控訴趣意

刑訴規則第一二〇条によれば、宣誓をさせた証人には、尋問前に、偽証の罰を告げなければならないことになつており、同第一二一条によれば、証人に対しては、尋問前に、自己又は刑訴法第一四七条に規定する者が、刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる旨を告げなければならないことになつている。

原審判決は犯罪事実を証明する証拠として証人桜井孝道の証言を援用しているがこれを記録に徴するに、右刑訴規則第一二〇条及び第一二一条に要求せられた注意を裁判所が証人に対して与えた記録は見当らない。公判調書には公判期日における審判に関する重要な事項を記載することが刑訴法第四八条第二項の要求であるにも係らず、その記載を欠いているのは右注意を喚起しなかつたことを推定せしむるものである。

さて問題の桜井孝道の証言であるが、同人は本件については告訴の側に立つ人物で、証言の内容よりすれば刑訴規則第一二一条の要求にはさまで関係のないことが明らかであるが、偽証に関しては最も警戒を要する人物である。刑訴規則第一二〇条が偽証の罰を告げねばならぬことを規定しているのは、云うまでもなく宣誓の意義を徹底せしめ証言に充分な証明力を確保しようとするもので、仮令宣誓をした証人の証言であつても、偽証の罰について注意を喚起されなかつた場合は、証言を自己に有利な方向に曲げたがる人間性の弱点と相俟つて、その証明力を夥しく削減するものである。被告人と反対の利害関係に立つ証人の尋問に当つては特にこの違法は許容し難いものがある。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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