東京高等裁判所 昭和27年(う)631号 判決
本件訴訟記録を調査すると、本件起訴状には、被告人が、庄田ゴム工業株式会社専務取締役庄田昇及び埼玉県教育委員会事務局主事倉林盈に対して、被告人が各学校に納入するゴム長靴は右会社で出荷し、その代金は、各学校から一旦右委員会へ回収し、被告人立会の上、右委員会側から右会社に交付することにしたいという条件を承諾しながら、裏面においてひそかに右倉林に対し、右会社との間に、先日の話合と異り被告人の方で代金の支払を受け、これを右会社に支払うことに話合が出来た旨申し欺き、真実右条件を承諾したものと誤信した庄田をして、ゴム長靴六百九十三足(価格二十五万四千六百三十五円相当)を西堀小学校外百八校に発送させるとともに、被告人の右申し入れを真実のものと誤信した倉林をして、各学校に代金支払は被告人に対してするように指示させ、その結果西堀小学校外百八校から合計金二十五万四千六百三十五円のゴム長靴六百九十三足分の代金支払請求権を取得し、もつて財産上不法の利益を得たという公訴事実の記載があり、なお罰条として、刑法第二百四十六条第二項を掲げてあり、原審裁判所は右公訴事実について審理を重ねた上、昭和二十六年十一月六日結審したところ、検察官から同日付の訴因変更請求書によつて、訴因を原判示のように変更するとともに罰条を刑法第二百四十六条第一項と変更する旨の請求があつたにかかわらず、原審裁判所は、右請求書の謄本を弁護人に送達し、且つ言渡期日を一回延期しただけで、別段に訴因変更の手続を採らないまま、原判示のように、庄田が、前記のように被告人が裏面においてひそかに倉林に前記のような申し入れをしたことを知らず、従つて被告人が承諾した前記のような条件で代金の支払を受け得るものと誤信していたのに乗じて、右会社の社員からゴム長靴合計六百九十三足(時価二十五万四千六百三十五円相当)の交付を受けて、これを騙取したとの事実を認定し、これに刑法第二百四十六条第一項を適用したことが明らかである。そこで、右公訴事実と原判示事実とを比較検討すると、その基本的な事実関係は同一であるが、その被害者及び被害法益において著しい相違があり、延いて被告人の防禦方法に著しい相違をもたらすものと考えられるから、原審裁判所が本件公訴事実に対して、原判示のような事実を認定するには、訴因変更の手続を要するものといわなければならない。
従つて、本件公訴事実に対して、訴因変更の手続を採らないまま、原判示事実を認定した原審裁判所の訴訟手続には、法令の違反があつたものというべく、しかも右違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであると認められるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。