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東京高等裁判所 昭和27年(う)794号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(判旨)

本件は、被告人がN県中央児童相談所の所員として昭和二六年六月六日法律第二〇二号による改正前の児童福祉法第一五条第二項の児童の資貭の鑑別を行うにあたり児童を全裸にさせたことが、刑法第一九三条所定の公務員の職権濫用罪に当るか否に関する事件である。右「資貭の鑑別」とは、右改正後の同法第一五条の二第一項第二号所定の「判定」と趣旨を同じくするものと解されるのであつて、医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神衛生上の見地からこれを行うべきものと言わなければならない。しかしながら、本件当時のN県下の児童相談所においては、医師をしてこの鑑別に当らせることは、事実上殆ど不可能な状況にあつて、心理学專攻者たる所員が專らこれに当る実状にあつたので、同県中央児童相談所における児童の資貭の鑑別もあげて、医師ではない心理学專攻者たる被告人に委されていたことは、証拠(内容省略)に徴して認められるところである。かかる関係から被告人は、心理学的検査を中心にできるだけ正確な資貭の鑑別を行おうとしたのであるが、従の検査方法では満足すべき成果を期し得ないので、臨床心理学の面から鑑別の成果を完からしめようとしたものであつて、本件の全裸による鑑別方法もかかる意図に出たものであることは、証拠(内容省略)によつて認められるところである。本件のような事情のもとにある児童相談所において、医師ではない心理学專攻者たる所員が児童の資貭の鑑別の成果を完からしめるためにかかる全裸による鑑別方法をとつたとしても、それだけで当然にその権限を濫用したものとは言い得ないことは、当審公廷における証人の供述によつても明らかなところである。しかしながら、鑑別の方法も、鑑別の本貭に照らし、おのずから限度があるべきものであつて、児童も、ことに女児については、なおさら、全裸となることについては羞恥感を抱くのが当然であり、かかる羞恥感は、児童の純潔心の保持の点からも、また情操教育の面からもこれを尊重すべきものであるから、資貭鑑別のため児童を全裸にすることは、特段の事由がない限り、児童の納得のもとに行われるべきものであつて、その自由意思を抑圧して行わるべきものでないことは言うまでもない。また、児童においても正確な資貭の鑑別は結局において該児童の幸福に帰することではあつても、同様の理由において特段の事由がない限り、その意に反して全裸となる義務はないと解すべきものである。記録に現われた原審における審理の結果竝びに当審における事実の取調の結果を彼此照合して検討すれば、本件の場合被告人が児童の納得を得ないで、乃至はその自由意思を抑圧してかかる鑑別方法を強行したものとは認め難い。従つて、被告人が原判示のように児童等を強要して全裸にさせ、もつてその職権を濫用して児童等に義務なきことを行わせたものと認めることはできないのであつて、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼす事実の誤認があるものと言わなければならない。

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