東京高等裁判所 昭和27年(ナ)3号 判決
原告 伊藤国将 外十八名
被告 東京都選挙管理委員会
一、主 文
被告が昭和二十七年一月二十五日なした「立川市選挙管理委員会の昭和二十六年六月四日附訴外人等の異議申立に対する決定を取消す。昭和二十六年四月二十三日執行の立川市議会議員選挙における当選人馬場操、同伊藤国将、同平三郎、同花村五六、同沢木文三郎、同清水昌三、同尾崎義蔵、同金丸宗重、同海老原兼次、同近藤忠、同佐藤昌男、同山口麻雄、同笠原浅吉、同大山仲次郎、同沢井竹次郎、同大路権次郎、同松島敏夫、同鈴木辰三、同浜田禎三の当選はこれを無効とする」旨の裁決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、
一、昭和二十六年四月二十三日に行われた立川市議会議員選挙において、原告等は何れも同議員候補者に立候補し、右選挙の結果当選した。
然るに訴外坂倉良助外三十七名は同年五月七日右選挙につき同市選挙管理委員会に対し当選無効の異議を申立て、同委員会は同年六月四日異議却下の決定をなし、右異議申立人等は同月二十五日同申立人中の板倉良助、井上利作、鈴木勝行を総代人として被告に対し訴願をしたところ、被告は同月二十五日附で、訴願人平林実、須田エンの訴願に対し、主文第一項記載のような原告等の当選を無効とする旨の裁決をなし、翌二十六日これを告示した。
右裁決の理由とするところは、右選挙では、
(一)、塚田幸与外百七名は選挙当日立川市に住所がなく、従つて選挙権を持たなかつたにも拘らず投票しており、その投票は無効である。
(二)、石川洋子外十四名は自ら投票せず、他の者が投票しているからこの十五名の投票は無効である。
(三)、松尾チヨカは選挙当日以前既に死亡し、又黒田すゞ子は選挙当日年齢未だ二十年に満たないにも拘らず同人等が投票したことになつておるが、これは当然無効である。
以上の無効投票合計一二五票を当選者である原告等の各得票数から差引くと、その残票数は首位落選者中島安蔵の得票数四一五票よりも少数となるから、原告等の当選は右無効投票の結果異動を生ずる虞があると云うのである。
二、然しながら、昭和二十七年八月十六日、同年法律第三百七号公職選挙法の一部を改正する法律が公布せられ、同法附則第二項に依り、同法第二百九条の二の規定が本件にも適用されることとなつた結果、本件における潜在無効投票数が仮りに被告の判定した通り一二五票であるとしても、原告等の当選には何等の影響なく、従つて右潜在無効票数の判定が不当であるか否の争点の判断を俟つまでもなく、被告の為した本件裁決は結局不当たるに帰し、取消を免れないことが明瞭である。
以下その理由を述べる。
三、上記改正法第二百九条の二によれば「公職選挙法第九十五条(当選人)の規定の適用に関する各候補者の有効投票の計算については、その開票区ごとに、各候補者の得票数から、潜在無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数はそれぞれ差し引くものとする」のである。
立川市では全市が一開票区、市議会議員の定数は二十六名であり、昭和二十六年四月二十三日施行の選挙における立候補者数は七二名、投票総数は二五四三三票、内開票管理者において有効投票と判定された数は二五〇五八票(無効三七五票)であつて、各立候補者別の得票数はそれぞれ別表中(一)の欄掲記の通りである。而して本件における潜在無効投票数が仮りに被告の判定したように一二五票あつたとした場合に、該一二五票を右各得票数に応じて按分して得た数は別表中(二)の欄掲記の通りであり、これを右(一)の欄の得票数から差引いた数(コンマ以下の端数を切り捨てた完全得票数)は別表中(三)の欄掲記の通りである。
四、而して今別表中(三)の欄における全立候補者の各得票数を比照するときは、原告等十九名は、当選確定者、古屋博、志村真次郎、桜井三男、守屋芳、浅見忠平、相原千吉、福本春一の七名に次で、有効投票の最多数を得た者として、議員の定数二十六名中に算入せらるべきこと疑なく、又潜在無効投票を一二五票と仮定した場合の本件選挙における法定得票数(公職選挙法第九十五条第一項第四号所定)は、この場合の有効投票と目されるべき二四九三三票(上掲二五〇五八票から一二五票を差引いたもの)を議員の定数二十六を以て除して得た数の四分の一に当る数即ち二三九、七四〇三七五であつて原告等の前掲得票は何れも該法定得票数以上なること勿論であるから、原告等の当選は最早一点の疑をも容れないのであると述べた。(証拠省略)被告指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因(一)、(三)、(四)の各事実はこれを認めるが、(二)の事実はこれを争うと述べた。(証拠省略)
三、理 由
昭和二十六年四月二十三日立川市議会議員選挙が行われ、原告等が何れも同議員候補者に立候補し、右選挙の結果当選した事実、訴外坂倉良助外三十七名が右選挙につき立川市選挙管理委員会に対し当選無効の異議を申立て、右異議却下の決定がなされ、坂倉良助、井上利作、鈴木勝行が異議申立人等の総代人として被告に対して訴願をなし、訴願人平林実、須田エンの訴願に対し被告が裁決をなすに至つた経過並に右裁決の理由が原告主張どおりである事実は何れも当事者間に争がない。
然るに、昭和二十七年八月十六日、同年法律第三百七号公職選挙法の一部を改正する法律が公布され、同年九月一日から施行されることゝなつたが、同法附則に於て、改正後の同法第二百九条の二の規定は公布の日から施行され、尚従前の公職選挙法の規定による当選の効力に関する争訟で、この法律の公布の日に於て現に裁判所に係属している訴訟にも適用する旨規定せられた結果、同改正規定が本件にも適用されることゝなつたことは明白である。
而して右第二百九条の二によれば、「当選の効力に関する訴訟の提起があつた場合において、選挙の当日選挙権を有しない者の投票、その他本来無効なるべき投票であつて、その無効原因が表面にあらわれない投票で、有効投票に算入されたことが推定され、且つ、その帰属が不明な投票があることが判明したときは、裁判所は第九十五条(当選人)の規定の適用に関する各候補者の有効投票の計算については、その開票区ごとに、各候補者の得票数から、当該無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差引くものとする」ことに規定してある。
そこで、立川市では全市が一開票区、市議会議員の定数は二六名であり、昭和二十六年四月二十三日施行の選挙における立候補者数は七二名、投票総数は二五四三三票、内開票管理者において有効投票と判定した数は二五〇五八票(無効三七五票)であつて、各立候補者別の得票数はそれぞれ別表中(一)の欄掲記のとおりである事実は当事者間に争がない。
而して、本件選挙における潜在無効投票が仮に被告の判定どおり一二五票であつたとするも、該一二五票を右各得票数に応じて按分して得た数は別表中(二)の欄掲記のとおりであり、これを右(一)の欄の得票数から差引いた数(コンマ以下の端数を切り捨てた完全得票数)は別表中(三)の欄掲記のとおりであることは算数上明白である。
そこで、今別表(三)の欄における全立候補者の各得票数を比照するときは、原告等十九名は、当選確定者、古屋博、志村真次郎、桜井三男、守屋芳、浅見忠平、相原千吉、福本春一の七名に次で、有効投票の最多数を得た者として、議員の定数二六名中に算入せらるべく、又潜在無効投票を一二五票と仮定した場合の本件選挙における法定得票数(公職選挙法第九十五条第一項第四号所定)は、この場合の有効投票と目されるべき二四九三三票(上掲二五五八票から一二五票を差引いたもの)を議員の定数二六を以て除して得た数の四分の一に当る数、即ち、二三九、七四〇三七五であつて、原告等の前掲得票は何れも該法定得票数以上であること明白である。
従つて、右潜在無効投票の有無は、原告等の当選には何等の影響がなく、原告等は当選者と判定すべきものなるを以て、被告のなした本件裁決は結局不当に帰し、取消を免れないものと云わなければならない。
よつて、原告等の本訴請求を理由があるものと認め、公職選挙法第二百十九条、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)