東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1185号 判決
被控訴人が昭和二五年九月二五日控訴人より、控訴人が同年一月に営林局より払下を受けることに決定した前橋営林局品川木炭倉庫にある木炭一万俵(一俵四貫入)を、受渡期日は控訴人が営林局から正式に払下を受ける同年一一月上旬、売買代金は控訴人が正式に払下を受ける昭和二五年一一月上旬現在の木炭卸売業者の時価による購入価格(東京都内各駅レール渡価格)を標準として控訴人被控訴人間で協議して決定すること、引渡場所は前記品川木炭倉庫とすることの約定で、買い受けるべき契約を締結し、同日被控訴人が控訴人に対し手附金四十万円を交付したところ、右売買代金額について結局被控訴人間に協議がととのわなかつたことは当事者間に争がなく、右代金額の協定に関する約定は、時価そのものによつて代金を決定するというのではなく、時価を標準として被控訴人控訴人双方協議の上決定するという趣旨であり、従て右売買契約はその内容の最も主要なる代金額につき当事者の協議がととのわない以上その代金の定めがなかつたと同様の結果となり売買契約としての効力を生じなかつたものである。従て売買契約が効力を生じたことを前提とし、これが解除を原因として右手附金の返還を求める被控訴人の請求は理由がないが、売買契約の有効に効力を生じたことを前提として控訴人に交付された手附金は、法律上の原因を欠く不当利得として、被控訴人に返還さるべきものである。当裁判所の本件に対する法律上の判断が右のとおりである外は、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。当審における証人松永貞二の証言並びに控訴会社代表者西崎由縁の供述によつても原審認定を左右するに足らない。
控訴人は、末尾添附の準備書面において、被控訴人が勝手に控訴人からの価格協定の申込に応じないでおきながら、価格協定が不調であるとして手附金の返還を求めるのは、著しく信義誠実の原則に反するものであり、かかる権利の行使は許さるべきものでないと主張するけれども、原審並びに当審証人佐治明、原審証人小島善二郎の各証言によれば、本件契約において、木炭代金を時価を標準として協定することと約した所以のものは、木炭が営林局で作つたものと民間業者で作つたものとはその価格に差があるし、又本件での時価というのは木炭卸売業者の東京都内各駅レール渡価格をいうのであるが、控訴人被控訴人間の本件契約においては木炭の引渡場所を右レール渡より被控訴人にとつて不利である前記品川木炭倉庫とした(レール渡によれば直ちに営業区域で売捌くことができるが、品川倉庫渡では営業区域までの運賃を被控訴人において負担することとなる)等の関係もあつて、右時価よりも安値に協定しようという趣旨であつたところ、価格協定の折衝において控訴人より提示された価格は、木炭の品種等の上からもやや高値だつたので、被控訴人において控訴人提示の価格の協定に応じなかつたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。そうだとすると、被控訴人が価格協定に応じなかつたからとて、これを理由として売買契約の無効を主張し、手附金の返還を求める被控訴人の請求を信義誠実の原則に反し許すべからざるものとするのは、当を得ない主張であつて、到底採用することができない。