大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1209号 判決

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金五万二二五〇円及びこれに対する昭和二十五年十月二十二日から支払済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用すると述べた。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人(もと墨田商工信用組合と称したが、昭和二十五年五月一日その名称を中央信用組合と変更し、更に昭和二十六年十月二十日現名称に変更した。)が、東京都信用組合第一回振興定期貯金という名称の定期貯金の取扱をなし、昭和二十四年十月二十一日訴外伊東永吉に対し右定期貯金証書五〇通(証券番号第〇一五六九一号乃至第〇五七四〇号)を発行したことは、当事者間に争がなく、原審証人山城幸五郎の証言によりその成立を認め得る甲第三号証及び同証言によると、控訴人が昭和二十四年十一月四日右訴外人に対し金三万五〇〇〇円を、弁済期は同年十二月三日との約で貸付け、その債権担保のため、右訴外人から前記定期貯金証書五〇通の交付を受けたところ、右訴外人が弁済期に右債務を弁済しなかつたので、控訴人が代物弁済として本件定期貯金債権の譲渡を受けるにいたつたことが認められる。

控訴人は、本件定期貯金債権は無記名債権であると主張し、被控訴人はこれは指名債権であるから、控訴人の右譲受には債権譲渡の対抗要件が欠けていると争うので、先ず本件定期貯金債権の性質について判断する。

証券が法律上の無記名証券である為めにはその証券発行者においてその証券を無記名証券とする意思即ち証券の正当な所持人であれば何人に対してでも弁済する意思を以てその証券を発行することを要する。本件定期貯金証書の発行者である被控訴人が証書発行に当りこのような意思を以て発行したかどうかの点につき調べて見ると、被控訴人代表者小野孝行の当審における供述の結果とその供述により成立を認める乙第二、三号証を総合すると本件定期貯金証書に預金者の氏名を表示しなかつたのは税務官庁に預金を知られたくないとの預金者の意向に応えることによつて一層預金を蒐集しようとの企図に出たものであるが、発行金庫側としては一般の定期貯金と何等異る取扱をしないこと、本件定期貯金の申込に当つては貯金者は申込書に貯金額と貯金者の住所氏名を記載し押印して申込をなし、金庫側では本件定期貯金の為めに「定期貯金台帳」を備付けこれに受入年月日、証書番号、貯金者の住所氏名、貯金額その他の事項を記入して居ること、貯金の払戻は右台帳所載の貯金者が貯金証書と前記申込書に押した印を持参して請求したときに払戻をなし、若し払戻に用いる印が申込書に押されたものと相異するときは印鑑証明書を提出せしめることにしていて、要するに台帳上に預金者となつている者であることを確認した上でなければ払戻をしない取扱であることが認められる。そうすれば、証書発行者たる被控訴金庫としては預金返還請求権をこの証券に化体して何人でも正当に証書を所持する者ならば、これを権利者と認めて払戻をする意思はないものと認めざるを得ない。成立に争のない甲第一号証の一乃至五〇の本件定期貯金証書を見ると、貯金者の名は記載せられてはいないが、同時にまたこの証書の何れの部分にも証券所持人には貯金を支払うとの趣旨を認むべき何等の記載もないことは、被控訴金庫において本件証書を無記名証券とする意思のなかつたことを確める一材料であろう。又本件定期貯金は昭和二三年法律第一四三号「割増金付貯蓄の取扱に関する法律」及びこれに基く昭和二十四年九月一日大蔵省告示第六一三号により取扱われたものであるが、これ等の法律及告示には本件貯金につき発行する証書を無記名証券とすべき旨の定めはないから、本件証書が法律上当然無記名証券となる根拠もない。ただ成立に争のない甲第二号証(前記小野孝行の供述により信用組合連合会が本件定期貯金の取扱につき所属の組合(被控訴金庫もその一員である)に対し出した指示であることが認められる。)には本件定期貯金の特徴として「無記名」なることが掲げられて居る。しかしながらこの記載だけから本件定期貯金証書を法律上の無記名証券として発行せられたと速断することはできない。何となれば、本件貯金では貯金者を外部に知らせない為めに預金証書には預金者の氏名を記載しないとの趣旨に過ぎないことが前記小野孝行の供述によりうかがえるからである。

結局本件定期貯金証書を無記名証券と判断すべき根拠は認められないからこれを一般の指名債権証書と認めざるを得ない。

前示甲第一号証の一乃至五〇によれば本件定期貯金に対する割増金は証書の一部に印刷せられた振興券と引換に支払われる定めであり、且、証書から切離された振興券に対しては割増金の支払をしない定めであることが認められる。従つて、割増金請求権行使の為めには振興券の附着した証書全体が必要となり、結局本件定期預金証書を所持する権利者(それは指名債権の権利者であることは前示の通り)に対してのみ割増金が支払われることになるものと認めざるを得ない。従つて割増金請求権を以て無記名債権であると認める訳にはゆかない。

以上の次第で、本件定期貯金債権は指名債権であるのに、訴外伊東永吉から控訴人に対する本件定期貯金債権の譲渡について、債務者である被控訴人に対する通知又は被控訴人の承諾のないことは、当事者間に争のない事実であるから、控訴人は右債権の譲受を以つて被控訴人に対抗することができないものといわなければならない。

してみると、控訴人が右訴外人から譲り受けた本件定期貯金債権に基いてなす本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく、失当であるから、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚三 吉田豊)

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