東京高等裁判所 昭和27年(ネ)139号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対して金十六万円及びこれに対する昭和二十六年三月八日から完済に至る迄年五分に相当する金額を支払え、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述並に立証及びその認否は原判決記載と同一であるからこれを引用する。
三、理 由
控訴人が昭和二十四年十一月二十八日その主張する建物を被控訴人から買受け同年十二月二十八日代金を支払うと共に建物の引渡を受けたこと、その所有権移転登記は昭和二十五年四月五日迄にする約定であつたが被控訴人はその期限を過ぎてもこれを履行しなかつたこと、この建物はもと訴外隈本繁吉の所有で同人から訴外田中一夫に、田中から被控訴人に順次売渡されたのであるが登記簿上は隈本の所有名義のままであつて控訴人もこの登記名義の点は知りながら前示の如く買受の契約をしたものであることは当事者間に争のないところである。原審証人堀尾和夫の証言及びその証言により成立を認める甲第八号証並に原審における控訴人本人訊問の結果によれば控訴人は隈本に交渉した結果昭和二十五年十一月一日同人より直接に控訴人への所有権移転登記をなし、金十六万円を隈本に支払つた事実を認めることができる。
控訴人は本件建物買受当時登記簿上の所有者が隈本になつていたことは知つていたが同人から被控訴人へ転々した経路や隈本に対する代金の支払が完了していない関係から登記について同人の協力を得られない状況にあつた事情は知らず控訴人の取得登記が容易にできるものと信じていたから本件売買には隠れた瑕疵があると主張するのである。而して原審証人田中一夫の証言によれば同人は隈本に対して代金を完済していない為め隈本に対して登記手続を請求することができない関係にあつたことが認められる。然しながら、およそ売主以外の第三者の所有名義に登記せられている建物を買受ける者が一般普通人に要求せられる程度の注意を以てすれば或は買主への登記が不能になるかも知れぬ虞のあることは当然予期すべきものと認められる。控訴人が本件建物を買受けたとき登記簿上は隈本の所有名義となつていて被控訴人の所有名義でないことは知つていたのであるから控訴人としては移転登記を受けられないことになる虞もあることは当然予期すべきことである。仮令控訴人において取得登記が容易にできるものと信じたとしてもそれは一般人に要求せられる程度の注意を欠いて取得登記が不能になるかも知れぬ瑕疵を軽卒にも見落したものと判断せざるを得ないのでこれを以て建物に隠れた瑕疵があつたと認めることができない。従つて控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却した原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 小堀保 角村克巳 原増司)