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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1478号 判決 1953年6月22日

控訴人(原告) 菊池広繁

被控訴人(被告) 杉並税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人が控訴人の昭和二十四年度の所得につき、昭和二十五年二月二十六日付通知書を以て所得額及び所得税額の更正をなし、その後同年四月八日付通知書を以つてこれが減額訂正をなした更正決定中、所得額六万六千円所得税額一万五百円とあるを、所得額三万五千三百円、所得税額

二千二百円と変更する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

証拠として、控訴代理人は、甲第一号証、第二号証の一、二、三を提出し、原審(第一、第二回)並に当審における控訴人本人訊問の結果を援用し、乙第三号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立を認めると述べ、被控訴代理人は乙第一乃至第四号証を提出し、原審並に当審証人小沢二郎の証言を援用し、甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

控訴人が昭和二十五年一月二十五日被控訴人に対し控訴人の昭和二十四年度の所得額を金三万五千三百円として確定申告をしたが、被控訴人は昭和二十五年二月二十六日付書面で控訴人の右年度の所得額を金十万円、所得税額を金二万一千四百五十円と更正決定をなしたこと、控訴人が右更正決定に対し昭和二十五年三月二日東京国税局長宛審査請求をなしたところ、被控訴人は同年四月八日附書面で前記所得額を金六万六千円、所得税額を金一万五百円と減額決定したことは当事者間に争がない。

よつて控訴人の昭和二十四年度の所得額につき案ずるに、原審並に当審証人小沢二郎、原審(第一、第二回)並に当審における控訴人(但一部)の各供述を綜合すれば、控訴人は昭和四年頃から不双教の神道教師を勤め、その傍ら昭和十年頃からは占業を営んでいたが昭和二十四年中ば現住所において開業していたこと、その当時控訴人は同人に帰依する信者五、六十名を擁していた外これ等の信者の紹介する者も控訴人方に出入していた関係上控訴人に対し易占鑑定及び、命名、地祭を依頼する者は一箇月間に五日乃至十日間を除く外一日に一、二名から五、六名あり、控訴人は右各依頼者から一回に金百円乃至金二百円の料金を受領していたこと、また控訴人は右の外に小学生二名に書道を教授し、各一名から一箇月に金百円宛の謝金を受領していたことを認めることができる。而して右の如き業務に従事する者の所得についてはその精細明確な事実関係の主張立証のない場合には認定可能な事実関係に基きこれを推算計上するを妨げないものと解すべきところ、以上の事実によれば控訴人は昭和二十四年中平均一箇月の内二十三日間に一日につき三名の依頼者等から各金百円宛合計金三百円を収めうべく、尠くともこれよりその二割に当る必要経費を控除した金二百四十円の所得を挙げえたものと認むべく、従て控訴人には同年中に総計金六万六千円を下らない所得があつたものと認めるのが相当である。しかも真正に成立したと認められる乙第三号証によれば昭和二十四年度の東京都における一人当りの平均年間生計費は金三万五千八百十八円であることを認めうるところ、成立に争のない乙第一号証、乙第四号証、前記証人小沢二郎の証言によれば、控訴人は昭和二十四年中その妻と共に生活していたが、その頃前記信者等から供物等の寄進を受けていたとはいえ、なお格別の借金をなさず多少の郵便貯金をも有し、ラジオ、新聞を聴取、購読し、特に普通程度以下の生活をなしていたものではないことを認めうるから、控訴人方の生計費も上記平均生活費より著しく低額であるとは認められない。従つて、この点からみても前記所得の認定が正当であることを支持するに足るものというべきである。前記認定と牴触する原審(第一、第二回)並に当審における控訴人本人の供述は措信し難く、甲第一号証によつては控訴人の収入の最低額はこれを知りうるも、これを以てその所得の全部なりということはできないから、前記認定を覆すに足りないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。然らば被控訴人が控訴人の昭和二十四年度の所得額を金六万六千円、所得税金を一万五百円と決定したのは相当であるからこれを不当としてその変更を求める控訴人の本訴請求は理由がない。従てこれと同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)

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