東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1646号 判決
控訴人は被控訴人に対し、金二百六十二万四千四百二十四円及び内金四十三万七千四百四円に対する昭和二十七年十月三十一日から、金五十九万六千四百六十円に対する同年十一月十六日から、金三十九万七千六百四十円に対する同年同月十七日から、金百十九万二千九百二十円に対する同年同月二十三日から、それぞれその支払ずみに至るまで、百円につき一日金二十七銭の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人の負担とする。
この判決は、被控訴人において、金百万円の担保を立てることを条件として、仮りに執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は、原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求めると申し立て、被控訴人が当審にいたり拡張した請求に対しても、これを棄却するとの判決を求めた。被控訴代理人は、本件控訴を棄却するとの判決を求め、なお当審にいたり、請求の趣旨を拡張して、主文第二、三項同旨の判決及び仮執行の宣言を求めると申し立てた。
当事者双方の事実上の陳述は、左に掲げる事項を除いては、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
一、被控訴代理人は、当審にいたり、新たに次のように、附け加えて述べた。
(一) 被控訴人は控訴人に対し、原判決の事実欄に記載してある(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の四口の貸金債権を有するものであるが、控訴人は、弁済期を経過するも右貸金元本の支払をしないばかりでなく、弁済期後の損害金の支払をも怠つたので、被控訴人は昭和二十七年十月二十二日控訴人に対し、同日までの元利金の支払を催告すると同時に、若し遅延損害金の支払を一年分以上延滞するときは、これを元本に組み入れる旨をあらかじめ通知し、次いで控訴人が現実にこれを一年分以上延滞したので、被控訴人は(イ)の債権については、昭和二十七年十一月一日、(ロ)及び(ハ)の債権については、同年同月十八日、(ニ)の債権については、同年同月二十五日それぞれ、当日までの遅延損害金の支払を催告すると同時に、若し控訴人が右遅延損害金の支払をしない場合には、これを元本に組み入れる旨の通知をなした。しかるに控訴人は、右遅延損害金の支払をしなかつたので、(イ)の債権については、金二十一万七千四百四円、(ロ)の債権については、金二十九万六千四百六十円、(ハ)の債権については金十九万七千六百四十円、(ニ)の債権については、金五十九万二千九百二十円の、それぞれ弁済期後一年分の遅延損害金が元本に組み入れられ、元本の額は、(イ)の債権について金四十三万七千四百四円、(ロ)の債権について金五十九万六千四百六十円、(ハ)の債権について金三十九万七千六百四十円、(ニ)の債権について金百十九万二千九百二十円、以上合計金二百六十二万四千四百二十四円となつた。よつて被控訴人は、当審にいたり、請求の趣旨を拡張し、右新元本及び(イ)の債権については昭和二十七年十月三十一日、(ロ)の債権については同年同月十六日、(ハ)の債権については同年同月十七日、(ニ)の債権については同年同月二十三日から、それぞれ支払ずみに至るまで、従来の損害金の利率に当る金百円につき一日金二十七銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 後に記載する控訴人主張(二)の事実に対し、被控訴人が本件において請求する金二十七銭の日歩には、調査料、手数料等は包含していない。被控訴人は控訴人から調査料、手数料等を徴さなかつたもので、若しこれを請求するとすれば、数十回の取引のうち、最初の回だけ調査をなしこれを徴すれば足るのであるが、控訴会社は東京証券取引所上場銘柄会社であつたから、これを取らなかつた。
(三) 同(三)の事実に対し、被控訴人が控訴人に対し、貸与金額全額の交付をしなかつたとしても、それは、両者間の金融取引は前後数十回に亘り、その間取引の迅速を図るため、控訴人は被控訴人を信頼し、前渡利息の清算を被控訴人の事務に委ねたのにすぎない。そればかりでなく、一般に手形を利用する消費貸借において、借主が手形振出の都度、利息を計算してこれを元金に合算した端数の額面の手形を振出すというようなことは、元金の返済に代えて手形を書き換える場合を除いては絶無であつて、期間中の利息を控除した元金残額を交付し、これによつて元金全額について消費貸借を成立させることは公知の事実であつて、既に商慣習にまで発展している。
(四) 同(四)の事実に対し、控訴人主張の供託金額は被控訴人の請求する金額とは甚だしく相違し、債務の本旨に従つた供託ではないから、これによつて被控訴人の債務は消滅しない。しかのみならず、控訴人は右供託金還付の条件として、本件手形を被控訴人から控訴人に対して返還した旨の証明書を添附することを要求しているが、一部の弁済にすぎない金額の供託にあたり、かかる不法な条件を附した供託は、この点からいつても無効である。
二、被控代理人は当審にいたり、次のように附け加えて述べた。
(一) 控訴人は被控訴人から、その主張のような金員の貸与を受けたことはない。控訴人は被控訴人から、原判決事実欄に記載してある(1) から(14)までの十四通の約束手形について、手形割引を受けたものである。このことは後に(三)で述べるように、被控訴人は、右手形を受領して控訴人に金銭を交付するに当り、その都度割引料金を計算し、これを手形額面金額から控除した残額を交付するとともに、自ら手形金額、割引率、割引料金額、差引金額等を記載した計算書を交付した事実によつても明らかであるばかりでなく、控訴人は被控訴人に対し、単に前記十四通の約束手形だけでなく、最近昭和二十六年八月十一日から同年十月十七日までの間に、右十四通を含む合計五十四通の約束手形を振出交付したところ、被控訴人は、他の四十通については、割引後、満期日以前に裏書をなすことなく、引渡によつて第三者に譲渡している。(これら四十通の手形については、控訴人は、その最終所持人から請求を受け、控訴人自身、または控訴会社の整理を助成する訴外神商株式会社においてそれぞれ決済をつけた。) これによつて見ても被控訴人が控訴人から取得した手形が、信用証券として完成したものであつて、右手形の取引が、手形割引であることを証拠立てるものである。
従つて控訴人は、被控訴人に対し、右約束手形に基く手形債務を負担したことはあつても、普通の金銭消費貸借による債務を負担したことはない。
(二) すでに控訴人が被控訴人に対して負担する債務が、手形債務である以上、その満期日以降の損害金については、特に何等かの約定がなされない限り、当然手形法所定の年六分の利率によるべきであつて、しかも本件においては、損害金の利率について、いかなる特約も存在しない。ことに、被控訴人の主張する金百円について一日金二十七銭の利率は、これを年利率に換算すれば、九割八分五厘五毛の高率であつて、通常人が若しそのような高率を期限後も支払う意思があつたならば、その旨の特約をするのが普通である。そればかりでなく銀行業者を除く一般金融業者が、手形を割り引いたり、手形による貸付をしたりするに当つての割引料は、取扱の日からその手形の満期日までの割引料の外に、調査手数料や取扱手数料を配慮加算する結果、常に高率となるのであつて、本件の場合にも満期日までの割引料金率は、かかる手数料を加算含有しているものと解せられる。これに反し、満期日以降の損害金は、かかる特別な理由による手数料等は除外して定めるべきであるから、当初の料率よりは、低廉にならなければならない。
(三) 仮りに被控訴人と控訴人との間に、被控訴人主張のような消費貸借の合意が成立したとしても、被控訴人は当時控訴人に対し(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の債権金額全部を交付せず、(イ)については金三万八千十六円、(ロ)については金五万千三十円、(ハ)については金三万四千五百六十円、(ニ)については金十万四百四十円を、それぞれ割引料名義で控除し、控訴人に対しては、その残額を交付したにすぎないから、右割引料合計金二十二万四千四十六円については、消費貸借は有効に成立していない。
(四) 更に控訴人は、前記(1) から(14)までの約束手形十四通の債務につき、その手形金額及び満期の翌日から年六分の利息損害金を被控訴人に対し弁済のため提供したが、被控訴人はこれが受領を拒絶したので、控訴人は、昭和二十七年十月八日右手形金額合計金百三十二万円及び同日までの前記利率による損害金合計金七万千二百九十四円八銭、総計金百三十九万千二百九十四円八銭を、東京法務局へ弁済のために供託したから、この点からいつても、被控訴人の本訴請求は棄却されなければならない。
(五) 被控訴人から、被控訴人の当審における附加事項(一)に記載したような遅延損害金の催告及び元本へ組入れの通知があつたことは、争わない。
<立証省略>
三、理 由
一、原審における証人三井正彌の証言、原審及び当審における被控訴本人訊問の結果と、その成立に争のない甲第一号証の一ないし十四とを綜合して考案すると、被控訴人は控訴人に対し、(イ)昭和二十六年八月二十七日金二十二万円を弁済期同年十月二十九日、(ロ)同年九月十三日金三十万円を弁済期同年十一月十四日、(ハ)同年九月十四日金二十万円を弁済期同年十一月十五日、(ニ)同年九月二十二日金六十万円を弁済期同年十一月二十一日の約で貸与したこと。右貸借における利息は金百円につき一日金二十七銭と定められたものであること及び右貸借について控訴人は訴外東光物産株式会社を受取人として、原判決の事実欄に記載された(1) ないし(14)の約束手形(その手形金額合計は、前記貸金額の合計と同じ。)を振り出し、同会社がこれを被控訴人に白地裏書をしたものであることを認めることができる。
二、控訴人は、右金銭の授受は、消費貸借契約に基くものではなくて、右(1) ないし(14)の約束手形の割引を受けたものだと主張するが、被控訴人が金融を業とする者であることは当事者間に争がなく、右約束手形が控訴人において被控訴人から資金の融通を受けるについて、控訴人自身により、振出交付されたものであることは、弁論の全趣旨に徴し明白であり、しかも原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果によれば、右手形の裏書人である訴外東光物産株式会社は、控訴会社の子会社であつて、保証の意味で裏書をなさしめたものであることが認められ、右各手形が控訴人と同会社との商取引の結果振り出された商業手形であることを認める証拠は一もない。して見れば、右手形の取引は、いわば手形自体の価値に基き、これを有償的に取得する手形割引ではなくて金融業者である被控訴人が、控訴人に対し融通した金銭について消費貸借上の債権を取得し、右債務確保のため右手形を差し入れさせたもの、すなわち手形貸付として交付されたものだと認定するのが相当である。尤も右取引において、「割引」、「割引料」、「割引率」等の言葉が使われ、被控訴人自身またかかる文字を記載した計算書を取引の都度控訴人に交付したことは、原審証人三井正彌、高橋清一の各証言及びその成立に争のない乙第一ないし第五号証によつて認めることができるが、これらの言葉が果たして経済上、法律上の正確な意味において使用されたかどうかは大いに疑わしいばかりでなく、手形貸付にあたり期間中の貸付金利息をあらかじめ控除する場合において、世上しばしば「手形を割引く」、「割引料を差し引く」等の言葉が使用される事実に鑑れば、かかる言葉、文字が使用されたとの事実のみでは、前述の認定を覆すことはできない。原審及び当審における各証人及び被控訴人の供述中手形の割引をしたとあるのも、同様に解すべきである。また控訴人は、同様の取引において、右(1) から(14)までの手形とともに被控訴人に交付された約束手形四十通が、被控訴人から裏書をなすことなく、引渡によつて第三者に譲渡された事実を挙げ、(この事実はその成立につき当事者間に争のない乙第六号証から第四十五号証まで及び当審証人阿部勇の証言によつて認められる。) 右手形取引が手形割引である証拠であると主張するが手形貸付においても、貸主は更に該手形を他に譲渡することは敢て異とするに足りず、その場合裏書によるか、単に引渡のみによるかは、当事者の時宜によつて決すべきところであるから(金融業者が手形上表われることを好まない場合には、自身裏書をなさず、引渡のみによる。) 右の事実も、前記認定を左右するに足りない。
三、次いで、被控訴人、控訴人間の前述の消費貸借において、期間中の利息を金百円について一日金二十七銭と約したことは、一において認定したところである。そして金銭を目的とする債務の不履行について、不履行後の損害金の額は、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によることは民法第四百十九条の定めるところであるばかりでなく、原審及び当審における被控訴人の供述によれば、期限後においても、期限前と同一の利率による損害金を支払うべき暗黙の合意があつたことが認められる。控訴人は前記の日歩金二十七銭のいわゆる割引料のうちには調査料、手数料等純利息以外のものを包含する旨主張するが、かかる事実はこれを認めるに足る証拠なく、却つて原審及び当審証人三井正彌、高橋清一の各証言及び被控訴人の供述並びに前記甲第一号証の一ないし十四、乙第六号証ないし第四十五号証を綜合すれば、控訴人が被控訴人から手形によつて金融を受けたのは、昭和二十五年十月頃以来であるが、昭和二十六年八月頃から同年十月頃までの間に振り出した合計五十四通の約束手形のいわゆる割引料はいずれも日歩金二十七銭であつたことを認め得る。して見れば、被控訴人は、ことあたらしく調査手数料等を徴したものではなく、右の日歩はこの場合いわゆる純利息であると解するのが相当であつて、右控訴人の主張も採用できない。もとより右利率は、利息制限法所定の利率を超えることは明らかであるが、本件の債務が株式会社である控訴人の営業のために生じたものであることは弁論の全趣旨に徴し明白であるから期限後損害金については、利息制限法第五条の制限には服さず、しかも前述の範囲では、必ずしも公の秩序に反するものとは解されない。(被控訴人が、大蔵大臣に対し、貸金業等の取締に関する法律第三条の届出をなした者であることは、当事者間に争がない。)
四、被控訴人が(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の消費貸借契約をなすに当り、貸付金額全額の交付をなさず、控訴人の同意の下に貸付金額よりその貸付期間(概ね二ケ月)中の利息を、いわゆる割引料名義により、控除し、その残額を交付したものであることは弁論の全趣旨により明らかであり、その控除した金額が控訴人主張のような額であることは、被控訴人の明らかに争わないところであるから、被控訴人はこれを認めたものとみなす。しかしながら手形貸付において貸主が借主の同意の下に期間中の利息に相当する金額を控除した残額を交付することは、取引上普通見られるところであつて、右は借主において貸付金全額の交付を受け、改めて当事者の合意により期間中の利息を前払する手続を同時に行うのと同一であり、従つて貸付期間が前述のように比較的短期間である場合には、これによつて貸付金全額の交付があつたと同一の経済上の利益を得させたものと解すべきであるから、前記いわゆる割引料の控除にもかかわらず、合意にかかる貸付金全額について、消費貸借が有効に成立したものといわなければならない。
五、控訴人が昭和二十七年十月八日前記(1) から(14)までの約束手形金合計金百三十二万円及び各手形金額に対する満期日の翌日から右十月八日までの年六分の損害金合計金七万千二百九十四円八銭、総計金百三十九万千二百九十四円八銭を、被控訴人に対する右手形金債務弁済のため、東京法務局へ供託したこと及び右供託においては、供託金受領の条件として、被控訴人において右各手形を控訴人に返還したことの証明書を提出すること定めていることは、その成立に争のない乙第四十六号証によつて認められる。しかしながら控訴人は被控訴人に対し貸付金額に相当する前記各約束手形金額及びこれに対する弁済期に当る満期日以後金百円について一日金二十七銭の割合による損害金支払の義務あることは、上来認定したところによつて明らかであるから、よし控訴人において、前記供託金額を供託に先つて被控訴人に提供したとしても、かかる提供及び供託は債務の本旨に従つた提供及び供託とはいい難く、しかも右供託は、前述のように、元来債権証書である手形全部をあらかじめ被控訴人において控訴人に返還することを供託金受領の条件とするものであるから、そのいずれからいつても、右供託はその効力がなく、これにより、被控訴人の債権が全部はもちろん、一部についても消滅したものとは解されない。
六、最後に控訴人が弁済期後の前記損害金の支払をなさず一年分以上延滞したことは、上来認定したところによつて明白であり、しかも被控訴人が控訴人に対し被控訴人主張のような催告及び元本組入の通知をなしたことは、当事者間に争のないところであるから、右組入の通知はその効力を生じ、被控訴人主張のような損害金は元本に組み入れられたものといわなければならない。
して見れば被控訴人が右組入に基き、当審にいたり、その請求の趣旨を拡張し、新たに申し立てたような元利金の支払を求める本訴請求は、その理由があるからこれを是認すべく、原判決を右の趣旨において変更し、訴訟費用について民事訴訟法第九十六条、第八十九条、仮執行の宣言について、同法第百九十六条を適用して主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 渡辺好人)