東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1896号 判決
控訴人の本件請求の原因及び請求の趣旨は、控訴人は、昭和二十年八月一日その所有に属する別紙目録記載の建物を被控訴人へ売り渡し、買主たる被控訴人は向う二週間内に右建物をとりこわして移転し、その敷地を控訴人へあけ渡すことを約定し、約定の代金三万円はこれを支払つたが、約定の期限がすぎても建物のとりこわし、敷地のあけ渡しを実行しないので、控訴人は昭和二十五年九月六日被控訴人にたいして右不履行を理由として前記売買を解除する旨の意思表示をし、同年十月五日重ねて同様の意思表示をした、よつて本件当事者間には、前記売買による契約関係の存在しないことを確認する旨の判決を求めるというのである。以上の全趣旨は、結局のところ、前記売買契約の解除の効果として控訴人が有するにいたつた権利の存在及び控訴人が負担しなくなつた義務の不存在を確認する判決を求めることに帰する。ところが、控訴人の主張の前記の事実関係からみると、右解除の効果として控訴人に帰すべき権利として売買の目的物たる前記建物の所有権が存するだけである。従つて控訴人の本件訴はつまるところ別紙目録記載の建物が控訴人の所有に属することを確認する旨の判決を求めるものであるとみるほかはないのである。本件は建物所有権確認の訴である。
訴の利益の存することは、訴の許される要件のひとつであり、権利関係確認の訴については、権利関係の存否を即時に確定することにつき法律上の利益の存する場合に、訴の利益が存するとされるのである。また判決の効力は、原則として、訴訟の当事者にのみ及ぶのであり、確認判決についても、その既判力の及ぶところは、原則として訴訟の当事者にかぎるのであるから、確認の訴は、確認判決によつてある人にたいする関係において権利関係を即時に確定することにより原告が法律上の利益を有する、そのある人を被告とするのでなければ訴の利益が存しないことになるのであり、従つてかかる人でなければ被告として正当なる当事者ではないといわなければならない。
控訴人主張の事実関係からみて、本件は確認判決の既判力が第三者に及ぶべき例外の場合でないことは明らかであるから、これを原則にてらして按ずるに、被控訴人は前記建物について自己が所有権を有する旨を主張するものではなく、第三者に属するといい、その反射作用として控訴人の所有権を認めないだけであり、なんら控訴人の所有権の行使をさまたげるわけではないから、控訴人は被控訴人にたいする関係において前記建物の所有権が控訴人に属することを確定したとしても、控訴人の地位になんら加えるところはない。確定判決をうける前とうけた後となんらの変化がないこと明かである。すなわち控訴人は被控訴人にたいする関係において確認判決をうける何らの利益も存しないといわなければならない。
しかし、被控訴人はみずから所有権を主張しないというものの、もし、不動産登記簿の上に、あるいは家屋台帳の上に、前記建物につき被控訴人所有名義の記載があるような場合には、被控訴人は右のような公簿の記載をそのままにしておくことによつて、控訴人の所有権の円満完全な行使をさまたげるものであるから、結論は、おのずからちがつてくるのであるが、本件においては右のような事実について、なんら主張されていない。
かような次第で、被控訴人は本件訴の被告たる当事者適格を有しないと認めるのほかないから、本件確認の訴は正当なる当事者たる人を被告とせず、また被控訴人(本件被告)を被告とする限り同時に訴の利益の存しない訴だとの結論になるので、事実関係の存否について判断するまでもなく、控訴人の請求を棄却すべきものである。