東京高等裁判所 昭和27年(ネ)251号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の述べた主張の要旨は、原判決事実摘示と同一であるから、ここに引用する。
<立証省略>
三、理 由
各同一原本の存在とその成立に争のない甲第三、第四号証及び原審証人浜田豊太郎、佐藤保造の各証言を綜合すれば、浜田豊太郎は先代以来旗類の製造、販売を営んでいたが、昭和二十三年六月頃営業上約二百万円の損害を被り、その補填のため高利で借財を重ね、昭和二十三年十一月頃には既に債務総額は約金四百六十万円に上つていたのに反して、資産としては別紙目録<省略>記載の建物動産、有価証券等総計金八十一万円余に過ぎず、同年十二月末頃には金融に困り、支払停止の状態に陥つていたことを認めることができ、外に右認定を動かすに足るなんの証拠もない。
左記の(一)、(二)の事実は当事者間に争がない。
(一) 浜田豊太郎が昭和二十四年三月一日自ら和議開始の申立をなし、同年五月二十六日和議開始の決定があつたが、同年九月一日債権者集会で否決されたため、同年九月十日和議廃止決定があつて、同月十五日浜田豊太郎に破産宣告がなされ、同時に被控訴人が破産管財人に選任された。
(二) 控訴人は昭和二十三年十一月十二日浜田豊太郎に金三十万円を、弁済期同年十二月十二日、利息年一割、損害金日歩金二十銭の約で貸与し、同人から右債務を担保するため、同人所有の別紙目録記載の建物について第一順位の抵当権の設定を受け、その後昭和二十四年三月十日に至つて東京法務局台東出張所受附第二、三五一号で、右抵当権設定の登記手続を経た。
被控訴人は、右抵当権設定の登記当時浜田豊太郎が既に支払停止の状態に陥り、和議開始の申立をなしていたことを、十分知つていたと主張し、控訴人はその事実を否認しているから、次にこの点について判断する。上掲の甲第四号証、原審証人佐藤保造、浜田豊太郎の各証言及び原審と当審での控訴本人尋問の結果(各後掲の信用しない部分を除く)によれば、控訴人は上記認定の金三十万円の貸金を弁済期を過ぎても返済を受けられなかつたので、昭和二十四年二月頃から浜田豊太郎の所へ度々催促に行つていたが、同年三月二、三日頃同人の使用人である佐藤保造から、浜田豊太郎は外にもたくさんの債務があつて返済が困難なので、和議の申立をなした旨の説明を受けて、和議申立書の副本まで交付されたことを認むることができる。右認定に反する原審証人篠原達夫、大里宇一、の各証言と原審当審での控訴本人尋問の結果は上掲各証拠に比照してたやすく信用ができないし、外に上記認定を動かすことのできるなんの証拠もない。
控訴人は、破産法第七四条にいわゆる「第三者に対抗するに必要なる行為を為したる場合」とは、その行為に破産者の協力を要する場合には、その協力を求めた場合と解すべきで、控訴人が浜田豊太郎に上記登記手続について協力を求めていたのは昭和二十四年二月二十五日、六日であり、同人が故意にこの協力を拒んでいたので、同年三月十日に延引したのである。このような場合の善意、悪意とは右のように協力を求めた同年二月二十五、六日当時を標準として定めるべきで、その当時は控訴人は善意であつたと主張している。しかしながら、破産法第七四条にいう「権利の設定を以て第三者に対抗するに必要な行為をなした場合」とは、本件のような場合には、抵当権設定の登記手続をなしたこと自体を意味するもので、控訴人の主張のように解すべきなんの根拠もない、同条但書では仮登記に基いて本登記手続をなした場合を除外しており、仮登記については必ずしも登記義務者の協力が必要でないことを考えれば、同条を控訴人の主張のように解さなくとも、債権者の保護にはなんら欠くるところがない。
控訴人の別紙目録記載の不動産に対しての上記認定の抵当権設定登記手続は、抵当権設定後十五日を遙かに経過した後で、しかも浜田豊太郎が和議申立をなしたことを十分知つた後になされたものであるから、その余の争点についての判断をなすまでもなく、和議法第一〇条、破産法第七四条によつて、控訴人に対し右抵当権設定登記手続を否認する被控訴人の本訴請求は正当にして、これを認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によつて本件控訴を棄却し、なお、控訴審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 柳川昌勝 村松俊夫 中村匡三)