大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)449号 判決

控訴人が被控訴人に対し、その製造販売する清酒につき、控訴人所有の現商標の使用禁止を求める本訴請求は、次に記載する事項を附け加える外、結局、被控訴人は、控訴会社の前主X´が現商標の登録を出願した昭和二十二年九月十五日前から、原判決の記載と同一の理由により、取引者需要者間に広く認識されていた「稲田姫」なる標章を善意に使用した者であつて、商標法第九条第一項により、控訴人前主の現商標の登録にかかわらず、その使用を継続することができるものと解するを相当とするから、右理由を引用して、これを棄却すべきものとする。

一、訴外稲田醸造株式会社が、昭和八年六月二十六日控訴会社から、前商標について分権を受けて、その共有者となつたこと、及び当時被控訴人が右訴外会社の代表者であつたことは、当事者間に争がない。しかしながら、茨城県西茨城郡西山内村字稲田に本店を有する右訴外会社が、大正十一年十二月四日設立以来、その製造、販売(一部は、他より仕入れたもの)にかかる清酒に、郷土の県社稲田姫神社にちなんだ「稲田姫」の標章を附し、爾来何等不正競争の意思なく、善意に、その使用を継続して来たことは、原判決の認定の通りであり、しかもその成立に争のない乙第一号証、原審証人Bの証言、原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果並びに当事者間に争のない右訴外会社の各年度における清酒の造石高とを綜合して考察すると、右訴外会社の前記「稲田姫」の標章は、控訴会社の前商標の登録出願当時すでに同地方における取引者、需要者間に広く認識せられていたものと認定せられるから、同訴外会社は、控訴会社の前商標の登録に拘らず、右標章「稲田姫」の使用を継続することができたものといわなければならない。そして当審における被控訴人本人訊問の結果によれば、昭和八年中前述のように、同訴外会社と控訴会社との間に、前商標について分権の話が成立したのは、争のために長期の月日を費やすのを避けるため、争わずに示談をしたものであることが認められるので、これがため、同訴外会社が、不正競争の意思のあつたことを、自認したものとは到底解されない。いわんや、その成立に争のない甲第十三号証の一、二、三、乙第三号証の一、二、三と当審証人X´の証言並びに原審及び当審における被控訴本人訊問の結果とを綜合すれば、控訴会社が製造販売する清酒の大部分には「水雷」なる商標が使用され、「稲田姫」の商標が使用されるものは殆んどないか、少くともその一小部分(証人X´の証言によれば一割位)にすぎないことが認められ、しかも控訴会社の製造にかかる「稲田姫」という登録商標を使用した清酒が、東京地方及び茨城県地方で販売された事実がないことは、当事者間に争のないことであるから、前記訴外会社が不正競争をなす意思を持たなかつたことは明白である。

二、次いで被控訴人が、昭和十四年十月十三日右訴外会社から営業の譲渡を受けると共に、前記標章の使用を承継したことは、原判決に認定してあるとおりであるから、控訴人は、その使用を継続することができるものであつて、あえてこれがため、控訴会社の同意または控訴会社に対する通知を要しないものと解すベきであるし、また共有にかかる商標権の譲渡についても、原判決が詳細に認定しているような事情のもとになされた営業の譲渡、標章の使用の継続の事実、更には前段で認定したように、控訴会社の製造にかかる「稲田姫」の商標を使用した清酒が東京地方及び茨城県地方で販売されたことがない事実を併せ考えれば、前述の同意、譲渡の通知がなされなかつたとしても、これがため、被控訴人に不正競争をなす意思があるものとは、認められない。

三、更に、控訴人は、被控訴人が昭和二十四年四月八日、当時の現商標の商標権者訴外X´に対し、現商標の共有の申入をなした事実及び当時「登録商標」の文字を記載したレツテル(甲第四号証)を使用した事実を挙げて、被控訴人の悪意を推断すべきであると主張するが、右共有の申入の有無にかかわらず、被控訴人は、X´の現商標の登録出願以前から、被控訴人が使用していた右標章を継続使用する権利を有したことは、原判決の説示と相まつて、すでに説明したとおりであるから、右申入をなしたことによつて、その権利に消長を来たすものとは解されない。また被控訴人が控訴人主張のようなレツテルを使用したことは、当事者間に争のないところであるが(尤も当審における被控訴人本人訊問の結果によれば、被控訴人は、昭和二十四年中これが使用を止めたことが認められる。)原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果と、弁論の全趣旨とを綜合すれば、右は、訴外中野醸造株式会社が昭和八年の分権契約以後使用したものを、被控訴人において、前述の営業の譲渡と共に承継使用し、更に昭和十九年十月六日、前商標権の消滅後も、不注意のため、これを使用したものであることが認められ、これと前記一の後段において認定した、控訴会社の本件登録商標「稲田姫」の使用の実情とを併せ考えれば、これがため、被控訴人に不正競争をなす意思があるものとは認められず。すなわち、これらの事実より、被控訴人の悪意が推断できるとの控訴人の主張は、採用することができない。

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