東京高等裁判所 昭和27年(ネ)621号 判決
成立に争のない甲第一号証、当審証人大山菊治の証言によりその成立を認める甲第六号証の一ないし三、原審並びに当審における証人大山菊治の証言及び被控訴人本人訊問の結果を併せ考えると、元来本件建物は空襲によるいわゆる焼ビルであつて、控訴人もこれを占拠してから相当の修繕をなしたものであるけれども、右建物を控訴人が占拠してから被控訴人との間に紛争を生じたのを大山菊治弁護士の勧告によつて被控訴人もこれを控訴人に賃借することを承諾するに至つたという経緯もあり、また右修繕はもとより被控訴人の承諾を得ないでなされたものであつて、しかも、被控訴人は本件建物を賃貸するに当つて控訴人から権利金をとらないこととした関係上、昭和二十二年三月五日控訴人と本件賃貸借契約を結ぶに際しては、その代償として、控訴人がそれ迄に右建物の修繕について支出した費用は全部控訴人が負担することとして、控訴人はこれが費用償還請求権を放棄しこれを請求しないことと定め、更に修繕工事は大部分出来上つていたので、控訴人が、その後に賃借部分に修繕をしても、その修繕費は控訴人が負担して被控訴人に請求しないこととして、あらかじめその償還請求権を放棄することを特に約定し、かつ、右賃借期間の満了又は契約解除により賃借部分を被控訴人に明渡すときは現状のままこれを明渡すことなどを特約したことが認められる。
控訴人は右特約は借家法第五条に違反し第六条により無効であると主張するけれども、同法第五条は賃貸人の同意を得て建物に附加した造作について賃貸借終了の場合における賃借人の造作買取請求権を規定したものであるから、いわゆる造作に該当しないところの建物の修繕費(必要費、修繕費)の償還請求権を排除する前記特約に就いては、同法条の適用はなく、従つて右特約を目して同法第六条にいう賃借人に不利益な特約となすことはできない。従つて、この点に関する控訴人の抗弁は理由がない。