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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)852号 判決

控訴人から訴外学校法人信証学苑に対する横浜地方裁判所横須賀支部昭和二十六年(ワ)第六四号評議員会等決議無効確認事件の本案判決確定にいたるまで、被控訴人広志正勝、同宮下祿郎、同山元道也、同牧野融が右学校法人信証学苑の理事の職務を執行することを停止する。

右停止期間中東京高等裁判所の指名した者をして仮りに学校法人信証学苑の理事の職務を代行せしめる。右指名は別に行う。

被控訴人江幡弘道は東京高等裁判所が前項の指名を終るまでは学校法人信証学苑の管理につき現状を変更するような処分をしてはならない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二、事  実

控訴代理人は、原判決を取消す、控訴人から訴外学校法人信証学苑に対する横浜地方裁判所横須賀支部昭和二十六年(ワ)第六四号評議員会等決議無効確認事件の本案判決確定にいたるまで、被控訴人らが学校法人信証学苑の理事の職務を執行することを停止する、被控訴人らの右職務執行停止期間中東京高等裁判所の選任した者をして仮りに学校法人信証学苑の理事の職務を代行せしめる、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とするとの判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、後記のとおり当審において附加した外、原判決に事実として記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。

控訴代理人は当審において次のとおり附加した。

第一、(一) 昭和二十六年八月十六日学校法人信証学苑(以下学苑と略称する)内で行われた学苑寄附行為第十四条第一項第六号にもとずき、福井玉夫及び有高厳を評議員に選任した評議員らの決議(評議員会の決議といつてもよい)は次の理由で無効である。すなわち、同日出席した評議員と称されている岡田兼道、増田良助、村松節夫、山崎恵満、江幡弘道、山元道也、金子朝子、徳永穂三郎、長谷川リイ、武田亀太郎の十名のうち、江幡弘道は学苑の設置する信証中学校及び信証高等学校の校長であるから同寄附行為第十四条第一項第一号により正当な評議員であるが、その余の九名はいずれも同条第一項によつて選任されたものではないから正当な評議員とはいえない。評言すれば右の内岡田兼道、増田良助、村松節夫、山崎恵満の四名は学苑の理事であるが同寄附行為第十四条第一項第四号に従い評議員に互選された事実がなく、金子朝子、山元道也の両名は学苑の職員、長谷川リイは学苑の設置する学校の在学者の母であるが、いずれも寄附行為第十四条第一項第二号又は第五号に従い学苑の理事会において選任された事実がない。また武田亀太郎は学苑設置の学校在学者の父であるが、同人を評議員とする昭和二十六年八月十日の理事会の決議はいわゆる持廻り決議であつて、寄附行為第六条第五項に違反するから無効である。これらの者は武田亀太郎を除く外当日欠席した西村規子とともにいずれも学苑の前身である財団法人信証学苑当時の評議員であつたため理事らは漫然同人らを学苑の評議員として扱つたものに過ぎない。すなわち出席評議員十名中九名が実は評議員でないのであるから前記決議は不存在であるか又は無効である。

(二) 仮りに右九名が学苑寄附行為第十四条にもとずき適法に選任された評議員であるとしても、右昭和二十六年八月十六日の評議員会については評議員の芦沢芳子に対し招集の通知がなかつたから、右決議は私立学校法第四十一条第三項、学苑寄附行為第十二条第二項に違反する無効の決議である。

第二、(一) 昭和二十六年九月十四日学苑内で行われた寄附行為第八条第一項第二号にもとずく評議員の理事互選行為は次の理由で無効である。すなわち当日評議員として出席した者は江幡弘道、山元道也、金子朝子、長谷川リイ、徳永穂三郎、武田亀太郎、福井玉夫、有高厳の八名であるが、そのうち山元、金子、長谷川、徳永、武田の五名が適法な手続によつて選任された評議員でないことは前述のとおりであり、また福井、有高の両名を評議員に選任した昭和二十六年八月十六日の評議員会の決議が無効であることも前述のとおりであるから、右出席者八名中江幡を除く七名はいずれも正当な評議員ではない。従つてこれらの者が加わつて行われた理事互選行為は無効である。

(二) 仮りに右七名が適法に選任された評議員であつたとしても、右昭和二十六年九月十四日の理事互選の評議員の会については寄附行為第十四条第一項第三号所定の同窓会推薦の評議員である控訴人及び訴外岡部美代子両名に対する招集通知がなかつたから、当日の評議員の理事互選行為は無効である。すなわち評議員が自分らのうちから互ひに理事を選びあうということは、各評議員が選挙人であるとともに被選挙人であるのであるから、たとえ一人でも通知もれのために欠席するときは必ずや互選の結果に影響を及ぼす筈である。従つて一部の者に対する通知もれという招集手続の瑕疵は当然互選行為の無効を来たすものといわなければならない。

第三、昭和二十六年九月十四日学苑内に開催された理事会の被控訴人宮下祿郎、同広志正勝を理事に選任する旨の決議は、前述のとおり無効な評議員互選行為によつて選任された理事福井玉夫及び被控訴人山元道也の参加の下にされたものであるからこれまた当然無効である。

第四、昭和二十六年十一月九日頃の理事会における被控訴人牧野融を理事に選任する旨の決議は、前述のとおり無効な評議員の互選行為又は無効な理事会の決議によつてそれぞれ選任された理事被控訴人山元道也、同宮下祿郎、同広志正勝の参加の下にされたものであるからこれまた当然無効である。

第五、被控訴人らは控訴人が原審で申請却下の裁判を受けたのに勢を得、しやにむにその野望を貫徹しようとしている。すなわち昭和二十七年三月三日被控訴人らは横須賀市教育部長と交渉して在校生全部を同市立第一高等学校に転校せしめ、神奈川県私立中学校協会を脱退し、さらに同年五月八日学苑の解散を決議し、神奈川県知事にその認可を申請したが、同知事は被控訴人らを警戒してまだその認可を与えていないが被控訴人らは執拗にその策動を続けている。学苑寄附行為第十九条第一項によれば学苑の基本財産は学苑の目的遂行上やむを得ない場合その一部に限りこれを処分することができるとあるため、解散前校舎全部の売却はできないので、なしくずし的にその目的を達しようとし、そのてはじめとして現在横須賀市に貸与中の校舎一棟の買取方を同市に交渉し、同市長は右買収議案を昭和二十七年五月二十八日市議会に提出したが、控訴人をはじめとする信証同窓会員の反対陳情によつてまだその議決をみていないが、被控訴人らの策動はなお続けられている。また同年六月十六日学校教育に必要な学苑としては唯一のピアノを横須賀市大滝町西楽器店に売却してしまつている。このように被控訴人らは計画的に学苑の潰滅をはかつているのであつて、本件仮処分の必要のあることは明らかである。

第六、被控訴人らの主張については、学苑発足後の評議員は新理事によつて寄附行為にもとずき選任されるべきもので、旧理事によつてされた評議員の選任行為は無効である。

被控訴人代理人は当審において次のとおり附加した。

第一、控訴人主張の第一第二の各(一)の点は当審において始めて主張するあたらしい事実であつて、これは時機におくれた攻撃方法で訴訟の完結を遅延させるものであるから却下を求める。

第二、仮りに右主張が許されるとしても控訴人のこの点の主張は、私立学校法の施行により従来の財団法人から学校法人に組織が変更された際すなわち学苑設立当初の評議員選出方法について所轄庁の示した手続のいかなるものであるかを知らないためのものと思われる。学校法人に組織変更の際における評議員選出の方法は新寄附行為に規定してない。よつて昭和二十五年七月十四日開催の理事会において学苑設立当初においては財団法人信証学苑の現評議員を学苑の評議員と看做すと決議し、同年八月二十八日の評議員会において理事長から組織変更の際現評議員はそのまま学校法人の新評議員として就任することを求め一同承諾し、かくして岡田兼道、逸見芳、山崎恵満、村松節夫、増田良助、西村規子、山元道也、金子朝子、江幡弘道の各評議員は同年十二月二十四日新しい学苑評議員就任の承諾書を正式に提出した。昭和二十五年八月十五日開催の理事会において、学校法人に組織変更の際現在の評議員数十名を十五名にし、増員五名の人選委嘱については、理事である校長に一任することを決議し、校長は右決議にもとずき長谷川リイ、徳永穂三郎、後藤喜一の三名を選び同年十二月二十四日就任の承諾を得ここに新評議員会の組織が成立した。これらの評議員はいずれも私立学校法第四十四条第一項の各号並びに学苑寄附行為第十四条第一項各号にそれぞれ該当する資格者である。すなわち江幡は寄附行為第十四条第一項第一号に、山元、金子は同第二号に、西村は同第三号に、岡田、山崎、村松、増田は同第四号に、後藤、長谷川は同第五号に、逸見、徳永は同第六号にそれぞれ該当する。もしこれに該当しない者がある場合は組織変更の認可があつてから後に補正手続をすればよいことになつている。かくして昭和二十五年十二月二十八日新評議員会を開き、新寄附行為第八条第二号により岡田兼道、村松節夫の両名が理事に選任され、同日の理事会において新寄附行為第八条第三号による理事として増田良助、山崎恵満が理事に選任され、続いて理事互選により岡田兼道が理事長に選出され、それぞれその就任を承諾したので、ここに学校長江幡とともに五名の理事が存するにいたつた。以上の選任手続により評議員及び理事が選任されたことを具申して昭和二十六年一月所轄神奈川県知事に認可申請書を提出し、同年三月十日学苑の設立が認可されたのである。武田亀太郎の評議員選任は昭和二十六年八月十日の理事会において可決され、本人就任を承諾、さらに同月十六日の理事会評議員会において出席理事岡田兼道、増田良助、江幡弘道三名によつて再確認され、理事長岡田兼道が出席の各評議員に武田を紹介し、正式に評議員に就任したものであつて、この選任は無効ではない。芦沢芳子は学苑の評議員に選任されたことはない。以上の理由により昭和二十六年八月十六日の評議員会は適法な手続により選任された評議員により合法的に議決されたもので、同年九月十四日の評議員会の理事互選も、適法な手続により選任された評議員により合法的に行われたもので、いずれもなんらの瑕疵なく、無効の主張は当らない。控訴人及び訴外岡部美代子の両名は評議員ではないから招集通知を発しないのは当然であつて、なんら違法ではない。それ以後の控訴人主張の各理事会の決議が正当なことはおのずから明らかである。

第三、学苑は昭和二十七年三月末にいたり在学生徒数わずかに二十四名程度に激減し、とうてい学校を維持することは困難となつたので、父兄会の総意にもとずき評議員会理事会等機関の正当な決議をもつて父兄の懇望を横須賀市に通じ市立学校に転入学の手続をとり、一応学校を休校にしたもので、理事者の悪意によりなされたものではない。かく学苑が衰運におもむいたのは、平山栄一派が学苑より引退して以来今日まで約四年間、学苑の公共性を弁えずこれを私物視して学苑の経営権を理不尽に再び彼らの手に握ろうとする魂胆から歴代の理事者の公正誠実な経営苦心に妨害的行動をとり紛争が続いたため、学苑に対する社会の信用が全く失われた結果であるといわねばならない。学苑は平山栄一族の引退の際残された多額の負債、その後に生じた負債等合せて約三百万円を負い、その償還の途なく、一方入学志願者皆無となつて収入源を失い、このままではとうてい学苑の維持は困難となつたので、父兄側も憂慮し、昭和二十七年一月二十五日PTA総会で審議の結果、負債の処置をなす上からも、職員生徒の身分を保障するためにも、学校を横須賀市に移管寄附するのが最も適当な措置であるとし、この旨強く理事者に進言されたので、理事会は直ちに評議員会の意見を徴しその賛成を得て、理事会の決議をもつて昭和二十七年二月横須賀市に交渉したのである。これに関し理事が県の内意を伺つたことはあるが解散認可の申請はしていない。しかしその後県当局の意向を参酌し、さらに慎重に理事会評議員等で審議を重ねた結果、解散しないで復興の途があるかどうかも検討することとなり、ひとまず現在の中学校、高等学校はしばらく休校として、もつぱら財政建て直しのために職業補導学校を収入の得られる方法で開設し、財政建て直しの暁に中学校、高等学校の再建をはかることも良策であるということになり、目下この案について理事者として頭を悩ましているのである。横須賀市水道部に貸付中の校舎一棟は大蔵省横須賀管財から払下げた校外の古建物を此処に移築したものであるが、この払下げ代金も移築工事費も支払わずに平山らは退陣したために、その負債額合計百万余円を管財及び工事請負人浅海組からきびしく催告を受け、猶予に猶予を重ねた末、右両者の負債を弁済するため管財及び浅海組の諒解を得て、横須賀市にこれを買つて貰うことに話を進めた次第で、実情止むを得ないものがあり、決して控訴人が主張するようなものではない。このような現理事者の熱心公正な労苦に対し、これを学苑を潰滅させる計画的策謀であるなどと暴言をはいて仮処分を申請するのは実に法人である私立学校の公共性を無視した不穏の所為といわねばならない。

<立証省略>

三、理  由

訴外学校法人信証学苑(略称学苑)の前身が財団法人信証学苑であり、右財団法人信証学苑は私立学校法の施行にともない昭和二十六年三月十二日その組織を変更して学校法人信証学苑となつたこと、右学苑発足当時の理事は訴外岡田兼道(理事長)、村松節夫、山崎恵満、増田良助及び被控訴人江幡弘道であつたこと、右岡田、村松、山崎、増田の四名が昭和二十六年九月三日辞表を提出したこと、被控訴人ら五名は現在学苑理事として在任しているところ、そのうち被控訴人山元道也は昭和二十六年九月十四日学苑において開催された学苑評議員会において学苑寄附行為第八条第一項第二号にもとずくものとして理事に互選されたもの、被控訴人宮下祿郎、同広志正勝は同日同所で開催された理事会において寄附行為第八条第一項第三号にもとずくものとして理事に選任されたもの、被控訴人牧野融は同年十一月九日同所で開催された理事会において寄附行為第八条第一項第三号にもとずくものとして理事に選任されたものであることは当事者間に争なく、被控訴人江幡弘道は学苑の設置する信証高等学校及び信証中学校の校長で寄附行為第八条第一項第一号にもとずき理事たる職にあるものであることは被控訴人らの明らかに争わないところである。

控訴人は、被控訴人江幡を除くその余の被控訴人らはいずれもその選任手続に瑕疵があつて無効であるから正当な理事ではないと主張する。控訴人はまず、被控訴人山元道也を理事に互選したとする昭和二十六年九月十四日の学苑評議員会の構成及び手続を争うものであつて、そこに出席した評議員と称する江幡弘道、山元道也、金子朝子、長谷川リイ、徳永穂三郎、武田亀太郎、福井玉夫、有高巌のうち江幡を除くその余の七名につきその評議員たる資格を争い、かつその前提として、右福井、有高両名を評議員に選任した同年八月十六日の評議員会の決議はその出席者岡田兼道、増田良助、村松節夫、山崎恵満、江幡弘道、山元道也、金子朝子、徳永穂三郎、長谷川リイ、武田亀太郎のうち江幡を除くその余の九名は正当な評議員ではないから無効であると主張するのである。この同年八月十六日及び九月十四日の二回の評議員会の構成を争う点は控訴人の当審においてあらたに主張するところであつて、被控訴人らはこれをもつて時機におくれた攻撃方法であるとして却下を求めるところ、右二回の評議員会の瑕疵を主張するところは、すでに原審においてもなされているところであつてただ原審においてはたんに招集手続の瑕疵を主張したのに、当審においてはその構成する評議員の資格そのものをも争うにいたつたのであるが、これによつて特に訴訟の完結をおくらせるものとも認められないから、控訴人の右あらたな主張はこれを許すべきものとする。

よつて控訴人の右主張の当否について、按ずるに、右昭和二十六年八月十六日学苑に開催された評議員会が控訴人主張の十名が評議員として出席してなされたものであることは被控訴人らの明らかに争わないところであり、この出席者中江幡弘道は学苑の設置する学校長として寄附行為にもとずき当然評議員たるものであることは控訴人の自認するところであるから、その余の九名についてさらにその正当な学苑評議員であるかどうかを検討しなければならない。

成立に争のない甲第一号証(学校法人信証学苑寄附行為)の記載によれば、学苑寄附行為には、「第五条 この法人には左の役員を置く 一、理事五人以上七人以内 二、監事二人 理事のうち一人は理事の互選により理事長となる」「第八条 理事は左の各号に掲げる者とする 一、信証高等学校及び信証中学校の校長 二、評議員のうちから評議員の互選によつて定められた者二人以上四人以内 三、前二項に規定する理事の過半数以上をもつて選任された者二人以上四人以内 前項第一号及び第二号に規定する理事は校長又は評議員の職を退いたときは理事の職を失うものとする」「第十二条 評議員会は十五人の評議員をもつて組織する(二項以下省略)」「第十四条 評議員は左の各号に掲げる者とする 一、信証高等学校の校長及び信証中学校の校長 二、この法人の職員(この法人の設置する学校の教員その他の職員を含むこの条中以下同じ)のうちから理事会において選任された者二人 三、この法人の設置する学校を卒業した者で年齢二十五年以上のもののうちから同窓会において推薦された者二人四、理事のうちから理事の互選によつて定められた者五人 五、この法人の設置する学校の在学者の父母若しくは保護者のうちから理事会において選任された者二人 六、この法人に関係のある学識経験者で前五号に規定する評議員の過半数以上をもつて選任された者三人 前項第一号、第二号、第四号及び第五号に規定する評議員は信証高等学校の校長信証中学校の校長この法人の職員理事又は父母若しくは保護者の職又は地位を退いたときは評議員の職を失うものとする」と定められていることは明らかである。従つて前記昭和二十六年三月十二日従前の財団法人信証学苑の組織を変更して発足した新しい学苑の理事及び監事並びに評議員はすべて右寄附行為の定めるところによりその定める資格ある者が所定の手続に従つて就任しなければならないことは多言をまたない。ただその発足の当初において新しい寄附行為にもとずく理事監事及び評議員を求めることは不可能であり、しかも法人の運営は役員(理事及び監事)なくしてはあり得ないところであるから、当初の役員は寄附行為をもつて定めることとするのである(私立学校法第三十条第二項同法附則第三項)。この発足当初の理事は寄附行為に則つて法人を運営しつつ先ずもつて寄附行為にもとずく役員及び評議員を決定してこれと更替すべき任務を有するものであつて、その死亡、辞任等の自然の離任事由を生ずるまで当初の役員がその職に止まり得るものとするのは制度の趣旨ではない。右甲第一号証の記載によれば、学苑寄附行為には附則として「この法人の設立当初の役員は左の通りとする理事(長)岡田兼道、村松節夫、山崎恵満、江幡弘道(校長)、増田良助、監事後藤喜一、久保田清吉」と定められていることは明らかである(右理事五名が学苑当初の理事であることは当事者間に争がないこと前記のとおりである)。しかして右寄附行為第八条によれば学苑の理事は学校長たる地位によつて当然その資格を与えられるものの外は評議員の互選によつて定められるもの二人以上四人以内、さらにこれらの理事の過半数以上をもつて選任されるもの二人以上四人以内とされているのであるから、寄附行為にもとずく理事を決定するためには、先ず評議員を決定することが先決問題であるといわなければならない。もつとも評議員に関する規定である右寄附行為第十四条によれば、評議員中にはその選定に理事又は理事会の存在を前提とするものがあるけれども(同条第一項第二号、第四号、第五号)、ここにいう理事又は理事会とは、その最初の評議員の決定に関する限りは、寄附行為に定められた当初の理事及びそれによつて構成される理事会と解すべきことは事の性質上当然といわなければならない。このことは理事を決定するに評議員の関与を規定しながら、法人発足当初の評議員について寄附行為になんらの定めのないこと(それはまた私立学校法の要求するところでもない)からもうかがわれるところである。被控訴人は昭和二十五年七月十四日の理事会において学苑設立当初の評議員は財団法人信証学苑の現評議員をもつて学苑の評議員とみなす旨の決議をし、これにもとずき財団法人当時の評議員がそのまま学苑の評議員に就任したと主張し、右事実は甲第三十九、第四十号証、乙第九、第十号証、同第十一号証の一ないし九の記載によつて明らかであるけれども、このような財団法人当時の理事会においてこのような決議をすることは無意味であるばかりでなく、あたらしい寄附行為の精神を無にし、組織変更の実を没却するにいたるもので、とうてい有効のものとは解せられないところである。かかる者を学苑発足後そのまま学苑の評議員として扱い来つた点において、学苑当初の理事は全くその方針を誤つたものといわざるを得ない。被控訴人らは、これらの評議員はいずれも私立学校法第四十四条第一項の各号並びに学苑の寄附行為第十四条第一項各号にそれぞれ該当する資格者であるから、それ自体学苑の評議員として正当のものであると主張する。被控訴人主張の当初の評議員岡田兼道、逸見芳、山崎恵満、村松節夫、増田良助、西村規子、山元道也、金子朝子、江幡弘道の九名中(これらの者が財団法人当時の評議員で、そのまま学苑の評議員に就任したことは右乙第九、第十号証、同第十一号証の一ないし九の記載により疏明される)、江幡が正当な学苑評議員であることは控訴人の争わないところであり、右岡田、村松、山崎、増田の四人は当初の学苑理事であつて、仮りに前記寄附行為第十四条第一項第四号にもとずき、あらためてその互選をしても理事の範囲は右以上には出ないのであるから、結局同一に帰着する外はないことは自明であるから、これらの者については学苑の評議員として正当のものと解してさしつかえないのであるが、その余の四名については、これらがいずれも学苑発足当初の理事会によつて選任されたものでないことは明らかであるから、それが寄附行為の定める資格を有する者のうちから就任したものであるとしても、寄附行為の定める手続を欠いている点でこれを正当の評議員と解すべき余地はないのである。もつともこのうち西村規子については被控訴人らは同人はこの学苑の設置する学校を卒業した者で年齢二十五年以上のもののうち同窓会において推薦された者で寄附行為第十四条第一項第三号に該当する者であると主張し、同号にもとずく評議員は理事会によつて選任されることは要件ではないけれども、その就任当時において同人に対しかかる推薦のあつたことは認め難く、甲第十五、第十六号証の記載及び原審における控訴人本人尋問の結果によれば、昭和二十六年三月十八日信証同窓会において同人及び芦沢好子を学苑評議員として選出する旨の決議がなされ、その決議書はその頃理事長に提出されていることがうかがわれるけれども、右決議はこの外に理事として金子正及び高橋為蔵をも選出していることは明らかで、同窓会において理事を選出推薦することはなんら寄附行為の定めるところでないことを考えると、右決議はあたらしい寄附行為にもとずく評議員を推薦する意図をもつてしたものとは解し難いところである。結局被控訴人ら主張の当初の評議員中理事たる五名を除くその余の者は寄附行為にもとずく正当の評議員とは認め難いのである。

次に被控訴人らは財団法人の理事会によつて評議員を増員し、長谷川リイ、徳永穂三郎、後藤喜一の三名をこれに就任せしめたと主張するけれども、これらの者が学苑当初の理事会によつて選任された者でないことは明らかであるから、たまたま寄附行為の定める資格のある者のうちから選ばれたとしても、寄附行為の定める手続要件をみたすものでなく、正当な評議員と認め難いこと前同様である。

してみると、昭和二十六年八月十六日の評議員会の出席者十名中少くとも山元、金子、長谷川、徳永の四名は寄附行為にもとずく正当の評議員ではないからこれらの者の関与した同日の評議員会の決議は無効と断ずる外はなく、右評議員会において選任された福井玉夫及び有高巌はいずれも正当な評議員ということはできない。

次に同年九月十四日開催の評議員会の出席者が控訴人主張の江幡、山元、金子、長谷川、徳永、武田、福井、有高の八名であることは被控訴人らの明らかに争わないところ、このうち少くとも山元、金子、長谷川、徳永、福井、有高の六名が正当な評議員と解せられないことは前記のとおりであるから、これらの者の関与によつてなされた理事の互選行為は、他の点について判断するまでもなく無効であることは明らかであつて、これによつて互選された被控訴人山元道也及び訴外福井玉夫は学苑の正当な理事ということはできない。従つて右両名が理事として関与してした同日の理事会の被控訴人宮下祿郎、同広志正勝を理事に選任する旨の選任行為、さらにこれらの者が理事として関与してした同年十一月九日の理事会の被控訴人牧野融を理事に選任する旨の選任行為も、すべて無効といわなければならない、すなわち被控訴人らのうち被控訴人江幡弘道を除くその余の四名は、いずれも学苑の正当な理事ではないというべく、このことは控訴人がその主張のように学苑の評議員であると否とに拘らずこれを認めなければならないところである。

しかしながら控訴人が学苑の評議員であるかどうかは、控訴人が訴をもつて右評議員会理事会等の決議の無効を主張し、また本件仮処分の申請をするについて法律上の利益を有する者であるかどうかに関係する。けだし、学校法人の評議員は評議員会を構成するとともに、また理事の選任に関与する権限を有し、評議員会は学校法人の管理に関する重要事項について役員に対して意見を述べもしくはその諮問に応ずる等の権限を与えられた学校法人の必須機関であるから、各評議員は法人の管理に関する重要事項については法律上の利害関係を有することは明らかであり、評議員会、理事会の決議の無効確認を求め、またその必要ある限りそのために仮処分を求める利益あるものというべきであるからである。よつてこの点についてさらに検討する。

控訴人が大正十五年五月一日生れの者で昭和十八年三月二十四日学苑の前身財団法人信証学苑の設置する信証高等女学校を卒業し、学苑の評議員に推薦され得る適格を有するものであることは被控訴人らの認めるところであり、乙第五号証、甲第十二、第十三号証の各記載に原審における証人岡田兼道の証言及び控訴人本人尋問の結果をあわせ考えると、控訴人及び訴外岡部美代子の両名は昭和二十六年八月十七日寄附行為第十四条第一項第三号の評議員として信証同窓会から学苑に対して推薦された者であることを一応認めることができる。この事実に前説明のとおり当時学苑には右第三号にもとずく正当な評議員が存しなかつた事実をあわせれば、控訴人及び右岡部は昭和二十六年八月十七日から以後他になんらの手続を要しないで右推薦行為自体によつて当然に学苑の評議員となつたものと解すべきことは右寄附行為の文言によつて明らかである。被控訴人らは昭和二十六年八月十六日の学苑評議員会において、卒業生代表の推薦する候補者二名又は三名の名簿を提出させ研究の上今後の評議員会の審議にまつことを議決したと主張するけれども、右評議員会の構成に不備のあることは前述のとおりであるばかりでなく、このような決議は寄附行為の規定を有効に変更するものでないことは寄附行為第二十九条によつても明らかであり、従つてまた右決議は寄附行為の規定に反する事項を内容とするものであつて、それ自体無効といわなければならない。

しかして控訴人が昭和二十六年十一月二日横浜地方裁判所横須賀支部に学苑を被告として評議員会等決議無効確認の訴を提起し、事件がげんに同庁昭和二十六年(ワ)第六四号事件として同裁判所に係属中であることは当事者間に争のないところ、被控訴人らがげんに理事として学苑の管理に関し種々重要な事項を決定処理していることは本件弁論の全趣旨から明らかであるから、右訴訟の完結にいたるまで正当な理事でない被控訴人らの理事たる職務の執行停止等を求める本件仮処分申請はその限度で理由がある。よつて被控訴人らのうち被控訴人江幡弘道を除くその余の被控訴人らに対し、右訴訟事件の本案判決確定にいたるまで、学苑の理事たる職務を執行することを停止し、その停止期間中当裁判所の別に指名する者をして学苑の理事の職務を代行させることとする。しかしながら被控訴人江幡弘道は正当な学苑の理事であることは前記のとおりであるから、同人についてその余の被控訴人と同様にその職務の執行を停止すべき根拠はない。ただ同被控訴人に対しては当裁判所が前記代行者の指名を終るまでの間は学苑において唯一の理事の職務を執行し得る者となるので、その間自らことさらに学苑の管理に関し現状を変更するような処分をすることを禁ずるをもつて足りるものとする。

被控訴人らは、私立学校法第四十九条によれば学校法人の代表権の制限及び委任仮理事特別代理人については、民法第五十四条ないし第五十七条の規定を準用しているが、民法第五十六条中裁判所とあるのは所轄庁と読みかえるとあつて、裁判所による本件仮理事選任は不適法であると主張するけれども、右民法第五十六条の仮理事の選任は、理事の欠けた場合に遅滞のため損害を生ずるおそれがあるとき争の有無に拘らず裁判所が非訟事件手続法に則り利害関係人又は検察官の請求によりこれをするものであつて、民事訴訟法上の仮処分の場合とは関係なく、これによつて裁判所の仮処分を制限するものではないから、私立学校法がこれを学校法人に準用するにあたつて裁判所とあるのは所轄庁と読み替えても、これによつて裁判所の仮処分の権限をうばうものでないことは明らかである。被控訴人らの主張は理由がない。

よつて控訴人の申請を却下した原判決は失当であるから、これを取消し、右のような仮処分を発することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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