東京高等裁判所 昭和27年(ラ)200号 決定 1952年10月29日
抗告人 山田明
相手方 山田敏
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、
(一) 原審判は、根本において、本件当事者間の扶養関係がいわゆる「生活扶養義務」なる点を看過している違法があり、原審判の理由中にあげてある次の諸点において、誤りがある。
(1) 相手方が家長として相当の親類交際をしなければならぬことが、原審判の理由とされているが、相手方が以前相当の地位財産を有したとしても、現在相当の格式をもつて親類交際をなさねばならぬ理由はないし、かつこの点について原審判には納得の行く理由が附せられていない。
(2) 相手方が最近取得した土地並びに株券売却代金を他に処分して残余が僅少であることが、原審判の理由とされているが、右事実認定は特定銀行に対する照会と一方的な陳述とだけを根拠としてなされており、かつ右金員の費消が已むを得ざりしや、相当なりしやについて判断を加えていない誤がある。旧民法第九百五十九条第二項中に「扶養を受くる必要が之を受くべき者の過失に因らずして生じたときに」扶養義務が存在すると規定した趣旨は、現行法の下においても考慮さるべきである。
(3) 相手方の老齢で、他に金銭を得る道を持たないことが、原審判の理由とされているが、相手方には病弱、その他特別に働けない事情がなく、相手方が抗告人との同居を拒む以上、相手方は若干の収益を自ら得ることができる事情にあることを、原審判は看過している。
(4) 原審判は、扶養の能力に関する抗告人側の事情について一方的な偏ぱな判断をしている。すなわち、抗告人は皮膚科の医師として○○○○病院に勤務する者で、給料以外の収入は得て居らないし、抗告人の妻も内職的に医業に従事し、その収益は税込年額十三万千三百円に過ぎないのに、原審判が「その実収額は相当なものである」と説示したのは、不可解である。
(二) さきに調停で定められた抗告人の相手方に対する扶養料一月二千三百円は抗告人の一家にとり相当の負担であつて、一たん増額されれば、将来抗告人が災厄にあつたときこれが減額を求めることは困難であるから、扶養料は右調停額に据えおくか、相手方が右金額で生活ができないというなら抗告人方に同居を命ずる審判をすることが相当である。
よつて「原審判を取り消す。本件を静岡家庭裁判所に差し戻す」。との裁判を求める。
というにある。
よつて、按ずるに、相互に扶養義務ある者の間における扶養の程度又は方法について、家庭裁判所がこれを定める場合は、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮しなければならない(民法第八百七十九条参照)。しかして、この一切の事情の中に、抗告人が指摘している「親類交際」等の点について原裁判所が考慮したことは違法でない。それと同時に抗告人が主張している相手方の取得した金員、その処分についても考慮を払うべきであるけれども、この点についての原裁判所の事実の調査が審判をするために不十分なものと断ずることは相当でない。かつ相手方が年齢七十一年を超えている今日その子たる抗告人が相手方の労働を期待することは社会通念上相当でないし、また抗告人側の扶養の能力に関する原裁判所の判断をもつて、偏ぱであるとする根拠に乏しい。抗告人の敢て争わない昭和二十六年度における抗告人の収入は年額三十四万七千百九十七円であり、その一割強にあたる年額三万六千円(月額三千円)の扶養料を抗告人が相手方に支払うことを命じた原審判はその理由中に詳述した諸事情を考察するときは、まことに相当というべく抗告人のあげた抗告理由は、すべて原審判を取り消すべき理由とするに足らない。
よつて本抗告は理由なしとして棄却すべく、主文のとおり決定する。