東京高等裁判所 昭和27年(ラ)254号 決定
(一) 選挙犯罪に因る処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止は、公職選挙法第二百五十二条に基く効果であつて判決自体の効果でないのにかかわらず、原審が、抗告人の主張する恩赦法第三条第一項に規定された「大赦」の遡及効を否定し、同法第十一条の規定する「有罪の言渡に基く既成の効果」中に、抗告人の被選挙権の停止が包含されると解して、抗告人の申請を却下したのは、法律の解釈を誤つたものである。
(二) 抗告人の被選挙権が大赦によつて遡及して回復せられた以上、抗告人は、群馬県議会議員の地位を保持する資格に何ら欠けるところはない。従つて昭和二十六年四月三十日施行の群馬県議会議員選挙の結果に対する公職選挙法による異議申立及び訴願が期間経過によつてできなくなつている今日、相手方は、右選挙の結果である抗告人の群馬県議会議員たる地位を失わせることはできないのにかかわらず、相手方は抗告人を失格させて次点者を繰上当選させようとしているのであるから、本件仮処分申請は許容せらるべきものである。
よつて、「原決定を取り消す。相手方は、前橋地方裁判所昭和二十七年(行)第三号県会議員たる地位の確認請求事件の判決確定に至るまで、抗告人の群馬県議会議員たる地位を奪う処置をとつてはならない。」との裁判を求める。
というにある。
よつて、按ずるに、抗告人の主張によれば、抗告人は、昭和二十六年四月三十日施行の群馬県議会議員選挙において被選挙権を有しなかつたのであるから、相手方は、本来抗告人を当選人と定めることができなかつたのにかかわらず、誤つて抗告人を当選人と定め、その旨告知し、かつ当選証書を交付したのである。そしてこのことが後日判明した場合、抗告人は当然その職を失うか、又は相手方の当選人の更正決定、当選人の繰上補充等の措置をまつてはじめてその職を失うかは、地方自治法第百二十七条公職選挙法第九十六条第九十七条等の規定に照し疑の存するところであるが、仮に当然その職を失うと解するときは、本来抗告人の群馬県議会議員たる地位を奪う権能のない相手方に対し右地位を奪う処置の禁止を求めることになつて、それ自体意味をなさないこととなり、又相手方がかかる権能を有し、これによりはじめて抗告人がその地位を失うものと解するときは、まだ現実にかかる処置がなされてないのであるから、抗告人は依然その地位を保有しているものというべく、抗告人は、かかる処置がなされて後にこそその取消を求める必要があるということができるが、その以前においてかかる処置の禁止を求める必要は毫末もなく、又かかる処置を不当とする争訟は、一種の資格争訟であつて、結局選挙争訟に準ずべきものであるから、あらかじめかかる処置の禁止を民事訴訟法所定の仮処分手続によつて求めることも、公職選挙法第二百十九条行政事件訴訟特例法第十条の規定に照しできないものといわねばならぬ。従つて以上いずれの見解に従うも、抗告人の本件仮処分の申請は理由がないのみならず、恩赦法第三条にいう有罪の言渡の効力を失うとは、有罪の言渡の効力を将来に対して失わしめる趣旨であつて、過去に遡及して有罪の言渡の効力を失わしめる趣旨に解すべきでなく、同法第十一条は、この当然の事理を明らかにした注意規定であつて、選挙犯罪に対する処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止もまた恩赦法第十一条の規定する有罪の言渡に基く既成の効果と解するのが相当であるから、原審が、これと同一見解の下に抗告人の被選挙権の停止は大赦により既往に遡つて変更せられたことにはならないと判断したのは相当であつて、この点に関する抗告人の抗告理由は理由がないので抗告人の本件申請は、この点よりするも理由がないといわなければならぬ。よつて原審が抗告人の本件申請をその主張自体理由がないとして却下したのは結局相当であつて抗告人の抗告は理由がないので、主文のとおり決定した。
(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪俣幸一)