東京高等裁判所 昭和28年(う)1209号 判決
被告人が被害者石井賢太郎方出入口土間において同人に対し原判示のように怒鳴つた言葉が同人方北側道路の通行人にも容易に聴き取れる情況にあつたことは、原判決の援用する検証調書の記載及び各証人の供述、供述調書の供述記載によつて充分に認められるところであるから、被告人の発した言葉は、不特定多数の者が聞き得る状態にあつたことが明らかである。名誉毀損罪における「公然」とは、不特定又は多数の者の見聞し得る状態にあることを言い、現実に見聞した者が皆無であることも妨げないものであつて、同罪は、かかる名誉に対する危険の状態の発生をもつて足りるとするいわゆる危険犯(危殆犯)であるから、本件の被告人が石井賢太郎に対して怒鳴つた言葉は、たとえ現実には附近に居合わせた同人の家族数名が聞いたに過ぎなかつたとしても、被告人が公然右石井賢太郎の名誉を毀損したものと言わなければならない。
原判決は、所論のように法令の解釈適用を誤つたものではない。
論旨は、独自の見解を主張するものであつて、理由がない。