大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)1211号 判決

被告人 川島和明

〔抄 録〕

右検察官の控訴の趣意第一点について。

論旨は、原判決は被告人が本件犯行後未だ官に発覚しない前である昭和二十七年十月十一日午後八時三十分頃居村緑海村駐在所において同村駐在巡査に右犯行を自首したものとし、刑法第四十二条第一項を適用したのは明らかに法令の適用を誤つたものであつて、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかである、というのである。よつて按ずるに論旨援用の宮内正雄の検察官に対する供述調書及び証人宮内正雄の原審公判廷における供述によれば本件犯行当夜緑海村駐在巡査宮内正雄が同村五木田留吉から本件犯罪の発生並びにその犯人が被害者理明の伜川島和明なる旨の通報を受け、直ちに現場に急行し更に折返して事件発生状況を蓮沼巡査部長派出所に電話で通報し終つた頃被告人が長島清と共に駐在所に出頭し宮内巡査に父理明を殺害した旨を申し出でたことを窺い得るがごとくである。しかしながら、五木田留吉の司法警察員並びに検察官に対する供述調書の記載によれば当夜五木田留吉は川島理明が道路上に倒れて血に染つているのを知り驚いて直ちに谷上医師にこれを知らせ医者の道具を持つて駐在所の前を通りかかつた際宮内巡査に会い今理明が殺された旨(検察官に対する供述調書中には通報の内容の記載がない)通報したことが認められるのみであり、当審における証人五木田留吉に対する尋問の結果に徴しても、五木田留吉は同人が宮内巡査に本件犯罪の発生を通報した際犯人が被告人川島和明であることは判つていたが果してこれを宮内巡査に通報したか否かは明らかでなく、また原審証人長島清の原審公判廷における供述及び同人に対する当審における証人尋問の結果によれば被告人が本件犯行後間もなく長島清と共に緑海巡査駐在所に出頭した際宮内巡査は電話を掛けていたところであつて、被告人が申し訳ない事をしましたと申し出でたところ同巡査は意外な風であつて、「お前本当にやつたのか」と念を押したことが認められるのである。

なお当審における証人宮内正雄に対する尋問の結果に徴しても、宮内巡査は当夜五木田留吉から今理明が伜にやられたらしいとの通報を受け、伜といえば和明のことであるが、同人は平常真面目な青年で、風評もよく、青年団の分団長もしていたので左様な悪い人間とは考えられず、半信半疑であつたところ、間もなく被告人が駐在所に出頭して来たので、「お前本当にやつたのか」と念を押したものであることが窺われるのである。したがつて、以上のような事実関係においては、被告人が本件犯行直後居村巡査駐在所に自己の犯行なる旨を申し出でた際は未だ犯人がなに人であるかは必ずしも明確ではなかつたものというべく、もとよりその間犯人がなに人であるか、またその所在につき捜査が開始された形跡もないのであるから、右はすなわち刑法第四十二条第一項所定のいわゆる自首に該当するものと認めるのを相当とする。されば原判決の認定には誤りはないものというべく、原判決には所論のような法令の適用に誤は存しないから論旨は理由がない。

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