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東京高等裁判所 昭和28年(う)1554号 判決 1953年8月17日

控訴人 被告人 山田信三郎

弁護人 関原勇

検察官 野中光治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人関原勇の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

公職選挙法第二百三十七条第二項の「氏名を詐称しその他詐偽の方法をもつて投票し…………た者」という構成要件は、氏名の詐称その他詐偽の方法を用いる行為とこれによつて投票する行為とを予定しているのであるから、その前者の行為に着手すれば、すなわち右の罪の実行の着手があつたものと解しなければならない。そして、同項後段の「氏名を詐称しその他詐偽の方法をもつて……投票しようとした者」という構成要件は、右の場合において実行の着手はあつたが行為全体としては完成しなかつた場合を規定したものであつて、いやしくも投票の目的で詐偽の方法を用いる行為に着手した以上、その詐偽行為自体が未完成に終つた場合であると、第二段の投票行為に着手しそれが未完成に終つた場合であるとを問わず右の罪の成立があるものと解すべきである。しかるに本件においては、原判決の挙示する証拠によると、被告人は他人の投票所入場券を投票所の係員に呈示し、それによつて投票用紙の交付を受け、投票台へ進みつつあるところを係員に呼びとめられ、本人である旨の宣言をさせられてその際本人でないことが発覚したというのであるから、すでに実行の着手があつたものであることは明らかであつて、その所為は公職選挙法第二百三十七条第二項後段に該当するものといわなければならない。その発覚が同法第五十条第一項所定の宣言以前であるか以後であるかは問うところではないのである。従つて論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 大塚今比古 判事 河原徳治 判事 中野次雄)

関原弁護人の控訴趣意

原判決は被告人に対し、公職選挙法第二百三十七条第二項に該当するとして罰金三千円に処する旨の刑に処したが、その理由は、被告人が、山崎幸男名義の入場券を以て、投票しようとしたという事実にある。しかし乍ら原審に現われた証人の証言を注意深く検討する時は、被告人は、公職選挙法第二百三十六条に規定する虚偽宣言をなした訳ではなく結局同法第五十条に規定する、選挙人の確認の段階で投票することを、投票管理者から拒否されたものであることが明白であり、公職選挙法第二百三十七条第二項の投票しようとしたものという処まではゆかないものであるからいわば同条同項の未遂であり、この事実を誤つて認定した違法があるから原判決は破棄されなければならない。

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