東京高等裁判所 昭和28年(う)2309号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔爭点〕強盜傷人の起訴に対し原審は傷害窃盜の二個の犯罪を認定している。検察官は、控訴して犯人は被害者に暴行を加え同人が反抗を抑圧されているのに乗じて同人の腕首から腕時計をもぎとつたものである。仮に犯人が被害者が取り落した腕時計を持ち去つたものであるとしても、この腕時計は、被害者の身辺に落ちていたもので被害者の所持下にあつたものであり犯人は前記暴行に接着して該暴行により被害者の反抗を抑圧した状況にあるに乗じて、この腕時計が被害者の物であることを知りながらこれを持ち去つたものであるからこの行為は強盜の所為である。即ち本件はいずれにしても一個の強盜傷人の犯行と認定しなければならないものだと事実誤認法令の適用の誤を主張している。
〔判旨〕原判決援用の証拠によれば、被告人が被害者に原判示暴行を加え原判示傷害を与え、これがため同人が反抗を抑圧されるに至つたことが明らかである。しかしながら該証拠その他の原審及び当審に現われたあらゆる証拠を検討するも、被告人が右前段所論のように被害者の腕首からその腕時計を奪い取つたものとは認め難い。却つて、原判決援用の証拠並びに当審公廷における被告人の供述、当審証人尋問調書○の供述記載検証調書中検証の結果の記載に徴すれば、被告人は、さきに判断したように被害者に暴行を加えて傷害を与え、これがため、相手方は反抗を抑圧されるに至つたが、被告人は、当時興奮状態にあつたため、かかる暴行の結果やこれにより相手方に与えた圧力については認識せず、暴行後直ちに現場を逃げ去ろうとした際附近に本件腕時計が落ちているのを認め、これが右被害者の物であることを知りながらひそかにこれを拾い上げ、これを同行者Xに手渡して持ち去つたものと認められるのであつて右暴行により相手方が反抗し得ない状態となつたのに乗じてこれを持ち去る意図に出たものとは解されない。従つて、右腕時計を持ち去る行為が右暴行に接着して行われ、また暴行により相手方が抗拒不能の状態に陥つていたものであつても、被告人の右腕時計の領得は、かかる暴行を手段とする意思なくして行われたものであるから、被告人の本件行為については、所論のように強盜傷人の罪責を負わしめるべきものではなく、原判決認定のとおり、これを傷害と窃盜の二個の犯行と認めるを妥当とする。原判決には、所論のような事実の誤認又は法令適用の誤があるとは解されないのであつて、論旨は、採用し得ないところである。