大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)2440号 判決

被告人 加藤栄治

〔抄 録〕

弁護人の論旨並びに被告人の論旨第一点について。

所論にかんがみ訴訟記録を調査し、原審が取調べた証拠を仔細に検討して見ると、被告人に対し本件犯罪事実を認定するに足りる所謂直接証拠(被告人の自白乃至犯行を現認したというような第三者の供述)は見当らないが、犯罪事実を認定するには常に必ずしも直接証拠によらねばならぬわけでなく、所謂間接証拠によつて一定の事実を証明し、それによつて合理的に犯罪事実を推認せしめることができるわけであり而して斯の如き場合犯罪事実は証拠によつて認定されたとするになんら支障のないものである。そこで直接証拠のない本件について、原審では先ず原判示冒頭の点即ち被告人が取引高税印紙の売買を業としていたことをその挙示の証拠によつて認定し、次に原判示第一乃至第七の事実中被告人が判示取引高税印紙を偽造したとの点を除くその余の事実を各その挙示する関係証拠を綜合して認定し、最後に原判示第一乃至第七の各取引高税印紙の偽造が被告人の所為である点については(一)、原判示第一乃至第七の偽造印紙はいずれも一度使用した取引高税印紙の消印のかからない部分を鋭利な刃物で切り取つたものを功妙に継ぎ合せ薄紙で裏打して偽造してあるその同一手法から見て、犯人は同一人であると認められること(二)、被告人がその頃取引高税印紙の売買を業としており、而かも原判示偽造取引高税印紙がすべて被告人方より出ていること(三)、原判示第四掲記の偽造千円印紙の裏打ハトロン紙に「加」の字があり、その左側の偽造千円印紙の裏打ハトロン紙に「栄」の字の上部八分位が現われており、又原判示第五掲記の偽造千円印紙の裏打ハトロン紙に「藤」の字が現われており而していずれもハトロン紙にボールペン様のもので記せられて、字の大きさも大体同じと認められる点から同一ハトロン紙に被告人の姓名である「加藤栄治」と記せられていた紙を夫々切つて使用したと認められること等以上の諸点を綜合して原判示各印紙の偽造が被告人の所為であることが推認されるとしているのである。而して右原審の証拠説明を訴訟記録並びに原審において取調べた証拠に照らし検討して見ると、その綜合判断の資料たる個々の事実の認定乃至その綜合的推理判断の上になんら実験則及び論理の法則に違反した点なく、原審認定の如き事実の結論に到達するは、蓋し当然の帰結であるといわざるをえない。これに対し所論は、原判示取引高税印紙の売買は被告人個人の営業でなく、桝本富士雄との共同事業であるとか、或は被告人の妻子も被告人に内密に取引高税印紙の売買をしたことが一再に止まらないとか、或はまた当時取引高税印紙の売買について被告人方に出入していた筒井万次郎の行動には特に疑惑を持たれる点が多い等と種々弁解するが、一々首肯に値するものなく、固より前記認定を左右するに足りない。所論はまた仮りに被告人が取引高税印紙を偽造するにしても、原判示のように自分の姓名を書いたハトロン紙封筒を切つて裏打に使用するとか或は被告人自身の宅地の保存登記申請書にその偽造印紙を貼付使用するような所謂「ヘマ」なことをするとは経験則から考えられないと縷々陳弁するが、そもそも被告人の本件犯行が発覚するに至つたのは、原判第一乃至第七掲記の偽造印紙が直接の端緒となつたものではない。即ち原判示の偽造印紙はいずれも功妙に偽造されていた為めこれを貼用した登記申請書類はいずれもその当時難なく所轄甲府地方法務局登記課の係員によつて受理され登記済となつたのであるが、その後たまたま原判示以外の方法によつて偽造されたと見られる取引高税印紙を貼用した登記申請書類が前記登記課に提出された際その偽造印紙が係員によつて発見されたことから為念その前後に受理された登記申請書類について細密調査を行つた結果原判示偽造印紙が発見摘発されるに至つたことは原審証人小野和雄の供述等で窺えるところであるから、判示印紙の偽造並に右偽造印紙の使用方法が幼稚拙劣であり経験則から被告人の行為とは考えられないとする所論は肯認するをえない。その他訴訟記録に徴するも、原判決にはなんら採証法則の違背乃至判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認の点あるを見ない。論旨はいずれも理由がない。

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