東京高等裁判所 昭和28年(う)2538号 判決
被告人 佐藤新三郎
〔抄 録〕
弁護人論旨第一の二に対して。
原審第四回公判調書には検察官が原判示第八の事実について量刑意見を陳述した旨の記載を欠くことは所論の通りであるが、原審記録によれば、原裁判所昭和二八年(わ)第四号窃盗(原判示第八事実)被告事件の第三回公判期日の冒頭に「本件に原裁判所同年(わ)第九八号窃盗等(被告人については原判示第一、第二、第三、第四、第七事実)被告事件を併合審理する」旨の決定が告知されて爾来右併合審理がなされ、その第四回公判期日において証拠調終了後検察官が本件公訴事実は被告人等の自白並びに取調べた証拠により証明充分である、よつて相当法条適用の上被告人佐藤に対し第一(本件記録に照し原判示第一に該当するものと認められる)事実について懲役六月、第二(同原判示第二に該当)事実について懲役六月、第三、四、七(同原判示第三、第四、第七に夫々該当)事実について懲役四年の科刑を相当と思料する旨意見を述べたことが認められる。従つて検察官は右公判廷において原判示第八事実に関しても証明十分であり相当法条を適用すべき旨の事実及び法律の適用について意見を述べたものであつて、ただその際量刑意見のみを遺脱したに過ぎないのである 刑訴法第二九三条第一項には「証拠調が終つた後、検察官は事実及び法律の適用について意見を述べなければならない」と定めているが、之を同条第二項及び刑訴規則第二一一条と対比するときは、裁判所が証拠調を終つた旨を検察官に告げたとき検察官において若し必要ありと認めるとき自ら進んで国家機関の職務を遂行として右法条による意見を述べるべきであるから、裁判所はただ検察官の右職務遂行の時期を指摘さえすれば、それで十分であり、その際仮に検察官が事実及び法律について全く意見を述べず、裁判所がそのまま弁論を終結しても差支えないのであつて、その手続には何等瑕疵はないと解すべきものである。況んや本件においては前叙の通り原判示第八事実のみについて検察官の法律適用意見のうち量刑意見だけが遺脱されたに過ぎないのであり、この様な場合には裁判所が之を釈明することは適切且望ましいことではあるが、必ず右釈明をしなければならないものではないから、原審の訴訟手続には所論の様な法令違反の廉は毫も存しないこと勿論である。論旨はいずれも理由がない。