東京高等裁判所 昭和28年(う)2663号 判決
被告人 松岡要太郎 外
〔抄 録〕
控訴趣意第一、について。
公職選挙法第百四十六条第一項は何人も、選挙運動の期間中は、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、同法第百四十二条、第百四十三条の禁止を免かれる行為として公職の候補者の氏名、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができないとし、同条第二項は、前項の規定の適用については、選挙運動の期間中、公職の候補者の氏名、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者の推薦届出者その他選挙運動に従事する者若しくは公職の候補者と同一戸籍内に在る者の氏名を表示した年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類似する挨拶状を当該公職の候補者の選挙区内に頒布し又は掲示する行為は同法第百四十二条又は同法第百四十三条の禁止を免かれる行為とみなすと規定し、これにより、著述演芸等の広告、年賀状、暑中見舞状等の頒布は日常生活においても一般に行なわれそれ自体違法のものではないが、選挙運動期間中これらの名目に藉口した選挙運動文書が頒布され選挙運動のための文書図画の法的制限を免かれようとする事例が少くないのでこれを明文をもつて禁止したものである。特に同法第百四十六条第二項は選挙運動の期間中、公職の候補者の氏名その他同項所定の者の氏名の表示のある年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類似する挨拶状の選挙区内における頒布又は掲示については、その行為の時期、形式、規模、地域等から考えて、同法第百四十二条、第百四十三条の規定する選挙運動文書の頒布、掲示の禁止を免かれる行為とみなし、かかる禁止を免かれる行為であることの立証を要しないものであるとしたものであつて、この同法第百四十六条第二項の規定は、その時期と地域を限定し、かつ公職の候補者の氏名の表示ある年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類似する挨拶状を対象としているものであるから、同条同項のみなすとした規定は所論のように苛酷な規定ということはできないし、又このみなすとある明文の規定を所論のように推定するとの規定と同様に解すべき合理的根拠は見出し難いのである。しこうして原判決の認定した事実は、被告人等は共謀の上、昭和二十七年八月二日施行の群馬県知事選挙に際し、その選挙運動期間中である同年七月三日頃から同月十五日頃までの間その選挙区域内において、十四回に亘り川田鯛三外十三名に対し、同選挙に立候補した竹腰徳蔵の氏名を表示した暑中見舞状である団扇を四本乃至約百五十本宛合計約六百八十本を頒布したものであるというのであるから、たとえ、所論のように右のような団扇が前年度にも頒布され、又本件団扇の作製注文が昭和二十七年五、六月中になされたものであるとしても、本件団扇が公職の候補者竹腰徳蔵の氏名を表示した暑中見舞状であることと、その頒布の時期、地域、規模等の客観的事実自体によつて、被告人等の本件団扇の頒布行為は公職選挙法第百四十六条第二項の適用を受け、同法第百四十二条の禁止を免かれる行為とみなされるのである。しからば原判決が被告人等の前記所為に対し同法第百四十六条第一項、第二項第二百四十三条第五号を適用処断していることは正当であり、原判決には所論のような法令適用の誤はないから、論旨は理由がない。