東京高等裁判所 昭和28年(う)2890号 判決
被告人 渡辺助次 外三名
〔抄 録〕
なお職権をもつて被告人小林善蔵及び同丸山作司の関係において按ずるに、記録に徴せば原審における昭和二十八年五月十八日の第四回公判調書には右公判廷において検察官は昭和二十七年十二月二十五日附起訴状中被告人丸山作司に対する第二の(三)の事実及び被告人小林善蔵に対する第三事実の各訴因はいずれもこれを撤回すると述べ裁判官は右訴因の撤回を許可する旨の起訴があつて、爾後の審理及び判決手続においてこの事実については何ら触れていないことが明らかである。而して記録編綴の前記起訴状によれば被告人丸山作司に対する第二の(三)の公訴事実として昭和二十七年十月七日午前八時頃同被告人が被告人小林善蔵方において同人に対し原判決記載第一の饗応接待した報酬として現金三千五百円を供与した旨の公職選挙法第二百二十一条第一項第三号該当の一個の犯罪事実が、被告人小林善蔵に対する第三の公訴事実として昭和二十七年十月七日午前八時頃同被告人が自宅で被告人丸山作司から前記のような報酬として現金三千五百円の供与を受けた旨の同法第二百二十一条第一項第四号該当の一個の犯罪事実が掲げられており又記録によれば被告人両名に対しては右公訴事実の外に原判決が認定した各犯罪事実を右事実とはそれぞれ別個の(即ち併合罪の関係にある)公訴事実として起訴されているものと認められることも亦明白である。而してこのように併合罪の関係にある数個の犯罪事実を公訴事実として起訴した後に至り何らかの理由によつてそのうち一個又は数個の犯罪事実を公訴事実から取り除くためには必ず公訴取消の手続によることを要するものであつて訴因の撤回起訴状の訂正その他によつてなすを得ないことは既に当庁昭和二十七年四月二十四日第七刑事部昭和二十六年(う)第四六五四号賍物牙保被告事件判決(高等裁判所判例集第五巻第五号刑第六百八十六頁参照)の示すとおりである。然らば本件において前記のように検察官が訴因の撤回を申し立て原裁判所がこれを許容したのであるけれども、右の措置は前敍したとおり右二個の公訴事実を取りのぞく方法としては適法に何らの効力を生じないものであつて、他に右両公訴事実について公訴取消の方法が講ぜられた事跡は記録上認められないから、右二個の公訴事実は依然原審に繋属していたものというの外なく従つて原審としては右両事実についても亦何らかの審判をしなければならなかつた筈のものである。然るに原判決は右被告人両名に対する関係において右二個の事実については何らの判示をも示していないこと記録上明白であるから、結局原判決にはこの点について審判の請求を受けた事件について判決をしなかつた違法が存するものと認むべきである故にこの点においても原判決中被告人小林善蔵及び同丸山作司に関する部分は破棄を免れない。