東京高等裁判所 昭和28年(う)3号 判決
被告人 小宮山明
〔抄 録〕
論旨第四点について。
公職選挙法第二百二十四条が収受し又は交付を受けた利益を没収し、その全部又は一部を没収することが出来ないときは、その価額を追徴すべき旨定めている所以のものは、かかる利益は常にこれを国庫に帰属せしめ、いやしくも収受し又は交付を受けた者をしてその利益を保持せしめないことにあるものと解すべきである。そして、選挙に関し候補者のため投票及び投票取纒の運動方を依頼された者がその報酬及び運動の資金として包括的に一定の金員を供与された場合において該金員中に、交通費、宿泊費、弁当料等の実費弁償又は労務者に対する報酬に充てるべき部分が含まれていたとしても、すべてこれを分別することができないようなときには、その供与を受けた金員全部が不法性を帯びるものとしてこれを沒収し、あるいはその価額を追徴すべきであるが、もし、右供与を受けた者が更に選挙人又は選挙運動者に対し、該金員の一部を投票又は投票取纒の報酬として供与し、或いは該金員の一部により同趣旨をもつて酒食の饗応をした結果、その選挙人又は選挙運動者につき同法第二百二十一条第一項第四号第一号の犯罪が成立し、その選挙人又は選挙運動者からその金員を没収し又はその価値を追徴することができる場合には、その選挙人又は選挙運動者に対し、沒収又は追徴を科するをもつて足り、金員中その部分につき、右の選挙人又は選挙運動者に金員を供与した者に対し、重ねて追徴を科すべきものではないと解せられる。
本件についてこれをみると、原審第一回公判調書中の被告人の供述記載、被告人の副検事に対する昭和二十七年十月二十九日附供述調書(第一回)中の被告人の供述記載及びAの検事に対する第八回供述調書(謄本)中の同人の供述記載を総合すると、原判示第一の現金二万円は被告人がA及びBから原判示候補者Xのため投票及び投票取纒の運動を依頼され、その運動に対する報酬及び運動資金として包括的に供与されたものであり、これを分別することができないものであるから、その金額全部が不法性を有するものと認むべきである。そして、原判示第二事実の合計金五百十円は被告人が右金員中から支出して選挙人C外二名に対する原判示酒食の饗応に費消したものであり、右C外二名から追徴することができるものであるから、これを被告人から追徴すべきでないことは勿論であるが、被告人が右二万円中から所論の車馬賃を選挙運動の実費として支出し、その支出が公職選挙法上適法なものであつたとしても、右支出にかかる金員が遡つて右不法性を失う道理がないから、その価額を被告人から追徴することができるものといわなければならない。それ故原審が右二万円中から前記酒食の饗応費合計金五百十円のみを控除し、その残額金一万九千四百九十円全部の価額を追徴したことはまことに相当であつて、原判決には何等所論の違法はない。論旨は理由がない。
註 本件は主文において追徴を言渡しながら理由中にその説明及び法条の適用なく且つ量刑不当の故を以て破棄。