東京高等裁判所 昭和28年(う)3204号 判決
被告人 樋口虎雄 外
〔抄 録〕
第一点及び第三点。
然しながら、原判決挙示の証拠によつて考察するのに、原判示警視庁巡査長沢芳雄は、原判示パチンコ店大黒屋からの届出に基づく北区赤羽本署からの命により同店内における暴行者取鎮のため同所に赴むいたものであつて、その際同店店員に対し酒の酔に任せて、玉が入つたとか、出さないとか、打ち止め機械の玉を出せ等とか言つて同店員と声高く口論していた被告人樋口虎雄が、右巡査から「何うしたのか」と言われ「ポリ公何しに来た、お前達の来るところじやねえから帰れ」と放言するが如き不隠な言動は、すなわち、右巡査をして同被告人において暴行若しくは業務妨害の所為に出づべき虞なしとしない疑を持たしむるもののあるに照らし、(このことは、原判決は証拠として引用してはいないが、証拠能力ありと思料される清水典男の検事に対する供述調書(記録九十六丁以下)に「酒に酔つた樋口虎雄が店員の清水典男や手伝に来ている柳という小母さんに対し、大声で『玉が出ない』とか『機械に入れた玉を何うしてくれる』とか怒鳴るので、他の客もがやがや言いながら大半出てしまつた。そこえ表から制服のお巡りさんが一人入つて来たのである」という趣旨の供述記載あるによつても窺がい得られる。)同巡査において、同被告人に対し「店内の狭いとこでごちやごちやしているより表へ出て話しをしよう」と申し向けたこともまた犯罪予防の職責を有する巡査の臨機の措置として毫も非議すべきものでなく、これに対し、同被告人が理不尽にも「表へ出ろとは何だ」と言いながら同巡査を突き飛ばし、暴力をもつて店内の奥に押し込めるうち、二人の間に入つた被告人加藤光男また被告人樋口虎雄の味方となり、同巡査に対して「表へ出ろとは何だ」と言い、茲に被告人等意思相通じて、交交原判示暴行に出でたるが如きは、とりもなおさず、被告人両名共謀して人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防並びに公安の維持に任ずる警察官吏当然の職務執行を妨害したものと言わざるを得ない。尤も、原判決挙示の証拠によるときは、巡査長沢芳雄が店内における暴行者取鎮のため来店した際、同巡査において、被告人樋口虎雄が四十年輩の女店員と口論しているのを認めて職務質問等の措置に出でたことはこれを認めることはできるが、同被告人において同店店員清水典男と口論しているところを見て右質問等に出でた事実はこれは認め得るに由がなく、原判決はこの点において事実誤認のそしりを免かれないとするも、右長沢巡査において、被告人樋口虎雄が、同店の店員(それが清水典男であると、四十年輩の女店員であるとを問わず)に対し口論するのを見て職務質問に出づる等前説示の如き職務の執行に出でたという基本的な事実において彼此相異るところなきをもつて右事実の誤認をもつて原判決に影響を及ぼすことの明らかな過誤であるとするには足りない。これを要するに、被告人両名共謀の事実等原判示事実は原判決を破棄するに足りない右の瑕疵あるほか、これを認め得るに足り、記録を精査するも、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はない。果して然らば、原審が、被告人両名を有罪と認め、原判示所為を刑法第九十五条第一項所定の公務執行妨害の罪の共同正犯に該当すると同時に同法第二百四条所定の傷害の罪の共同正犯に当る一個の行為で数個の罪名に触るる場合であるとして擬律処断したことは正当である。所論はすべて採用し難く論旨は孰れも理由がない。