大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(う)3777号 判決

被告人 八木忠作

〔抄 録〕

論旨第三点。

麻薬取締規則(昭和二一年厚生省令第二五号)第二条、第四二条、第五六条に規定する所謂麻薬の所有或は所持罪については、所有或は所持者が麻薬であることの認識があれば、その麻薬の種類の如きは識別すると否とに拘らずその所有或は所持罪が成立すると解せられるのであるが、昭和二〇年厚生省令第四四号は麻薬の中その製剤が最も容易で且つ人体に及ぼす害毒が極めて激烈である塩酸ヂアセチルモルヒネ及びその一切の製剤だけを限つてその所有、使用、破棄、販売、購入、贈与、受贈、分配又は輸送を禁止し、且つこれが届出、没取等を定めた特別の規定であり、昭和二一年同省令第二五号は同令第二条所定の麻薬一般について定めた一般規定であるから、前者は後者の特別法たる性格を有するものと解せられる(昭和二五年(あ)第三一八六号事件、昭和二六年一二月二〇日最高裁判所第一小法廷判決参照)から、昭和二〇年厚生省令第四四号第一条違反罪が成立するが為めにはその所有する麻薬が単に麻薬であることの認識を有する丈では不十分であり、更にその物が塩酸ヂアセチルモルヒネ及びその製劑であることの認識を有することを必要とするものと解する。

而して本件記録によつて原判決挙示の証拠を検討するにこれによつては被告人が本件発生当時その所有する本件麻薬が塩酸ヂアセチルモルヒネであることを認識していたと確認するには足りないのである。(当時医師は塩酸ヂアセチルモルヒネ以外の麻薬取締規則第二条所定の麻薬ならば所有は合法であつた。)むしろ原審第六回公判調書中証人山本儀一の本件麻薬捜査のとき麻薬取締官も立会したが、その時取締官から本件麻薬は塩酸ヂアセチルモルヒネであると云われてそれと分つたのである。被告人も本件麻薬が塩酸ヂアセチルモルヒネであると気がついたのはその時のようであつた旨の公判供述及び被告人の司法警察員に対する供述調書の記載に徴するときは、被告人は本件麻薬(塩酸ヂアセチルモルヒネ)を押収されるまで、これが麻薬であることは認識していたが、塩酸ヂアセチルモルヒネであることはこれを認識していなかつたものと認められるのである。

他に被告人が本件麻薬を塩酸ヂアセチルモルヒネと知つてこれを所有していたものと確認することのできる証拠は存在しない。

しからば原審は証拠の取捨判断を誤つた結果事実を誤認したものと認めざるを得ない。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄すべきものとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!