東京高等裁判所 昭和28年(う)3800号 判決
被告人 大原大助
〔抄 録〕
弁護人Aの論旨第一点及び第二点、同Bの論旨第一点乃至第四点について。
原判決挙示の証拠によれば、犯意の点を含めて原判示犯罪事実すなわち被告人が原判示日時肩書自宅において原判示組合常務理事佐藤信勝及び業務部員松浦利吉の両名から、同組合のため原判示手形の割引を依頼されて、原判示杉山与作方で同人に対し右手形の割引を依頼した結果、同人からその割引を受け現金二十万円を肩書自宅で受け取り右金員を前記組合のため受任の趣旨に従つて保管中、原判示日時右自宅で、擅にこれを自己の借財の返済及び営業資金等に充当するため着服横領した事実を肯認するに十分である。而して他人から手形の割引を依頼された場合、特約ないし特段の事情の認められない限り、その手形の割引により得た金員は、委託者に帰属するものと解すべきであるから、これを擅に着服又は費消するときは横領罪の成立することは論を俟たないところである。(昭和二十八年四月十六日最高裁判所第一小法廷昭和二十七年(あ)第四九〇号横領被告事件判決、最高裁判所判例集第七巻第五号九百十五頁参照)この点に関して、かくの如き場合、委託を受けた者については単に委託者に対し私法上の債務不履行の関係のみが存在するに過ぎないと論ずる所論は、全く独自の見解であつて採用する限りでない。次に被告人は前記松浦利吉に対し電話をもつて手形割引によつて得た金員を自己の用途に使用することにつき了解を得たと主張するのであるが、原判決挙示の原審公判廷における証人松浦利吉及び佐藤信勝の各証言によればかくの如き事実のなかつたことを認め得べくその他前叙したいわゆる特約とか特段の事情等の存在を認めるに足る証拠のない本件では原判決認定の前掲事実はまさに刑法第二百五十二条第一項の横領罪を構成するものと認むべきであるから原判決の法令の適用に何らの誤りあることなく、記録を精査検討しても原判決の事実認定に何らの過誤あるを発見できない。論旨はすべて理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。