東京高等裁判所 昭和28年(う)3824号 判決
被告人 佐久間美次
〔抄 録〕
論旨第一点について。
原判決は、記録第一四五丁以下、第四九〇丁以下、第四九五丁各編綴の検察官又は司法警察員に対する浜野友一の供述調書を証拠として引用しているのであるが、これら供述調書中、記録第四九五丁編綴の昭和二十八年九月十八日附第二回供述調書が録取作成者の署名押印を欠き仮にそれが被告人以外の者の供述を録取した検察官作成の供述調書であるとするも、刑事訴訟規則第五十八条第一項所定の作成方式に違背するもののあることはまことに所論のとおりである。然しながら、記録によれば原審検察官は、右第二囘供述調書を、原審第九囘公判期日に、浜野友一の検察官に対する供述調書として、作成者たる検察官事務取扱検察官副検事島田兼吉の署名押印ある第一囘供述調書(右第二囘供述調書と同日附)と共に証拠調の請求をしたのに対し、被告人乃至はその弁護人において何等異議を申し立てることなく、その第一囘供述調書と共にこれを証拠とすることに同意したものであることが明白であり、而も、右第二回供述調書が右検察官島田兼吉によつて録取作成されたものであることも両供述調書作成の場所、日附乃至は同調書の字体、筆跡、印影(第二回供述調書における文字の訂正、加入等のために押捺されている印影に影像不明なものがあつて、それらの印影だけでは如何なる印影であるか捕捉し難いけれども、第一回供述調書に押捺されている数々の鮮明な印影と比照するときは、同調書の字体、筆跡等をも総合考察して島田という印影であることが窺われる。)を同一にしていることによつて推認されるところであつて、その供述されたときの情況において、これを証拠とし得るを相当とするものはあつても、その証拠能力を否定すべき何等の事情も認め得られない本件においては、刑事訴訟法第三百二十六条第一項の規定に照らし、その証拠能力において法律上何等欠くるものはないといわねばならない。従つて、所論第二回供述調書に所論言うが如き検察官の署名押印がないから証拠能力が無いと主張する趣旨の所論は採用できない。而して所論において、該調書には録取作成した場所として単に川越連絡所と表示してあるが、それが果して何れの場所であるか、ただそれだけの表示では不明であると主張しているけれども、該第二回供述調書には、その供述者たる浜野友一の職業として、県販連川越連絡所長なる旨の表示があり、前示第一回供述調書には、右同供述者の職業として埼玉県販売農業協同組合連合会川越連絡所長の記載があつて、これらを総合して考察するときは、該第二回供述調書にその録取作成の場所として記載されている川越連絡所は、埼玉県販売農業協同組合連合会川越連絡所を指称するものであり、且つ該連絡所が川越市内に存在することも記録上自づから明らかであるから、単に川越連絡所とあるからといつて前示第二回供述調書作成の場所の表示として不明なものがあるということはできない。所論は採用できない。
浜野友一の検察官に対する前示第一回供述調書にその作成場所として単に川越連絡所と記載してあつてその場所が果して何れの場所であるかは不明であると主張して原審がこれが調書を証拠に採用したことを非難する趣旨の所論の理由のないことはすでに前段において説明したところに照らし自づから明らかであるから、特にその点についての説明は茲にこれを省略するけれども、該調書の所論指摘の各葉の間の片方だけに契印の一部を存し、他方にその残部の印影のないことはまことに所論のとおりである。なるほど、刑事訴訟規則第五十八条第二項によれば、官吏その他の公務員が作るべき書類には、毎葉に契印をしなければならないわけであつて、右供述調書は、これが規定に違背している点において不適法なものがあるといわざるを得ないが、若し該調書の形式、内容において契印のない前葉と後葉との間に一体性の認められるものがあるにおいてはその調書全体を無効のものというを得ないものと解すべきところ該調書に於ける片方に印影の一部を欠く所論指摘の契印不完備の個所における前葉と後葉に見る文字乃至は字体の同一筆跡にかかるものであることの窺われること、及び両葉間に連続している首尾の一貫した文脈等に照らし、その両葉が該供述調書として一体を為すものであることが明白であるから(而も被告人乃至はその原審弁護人は前段に説明したとおり原審においてこれを証拠とすることに同意している。)これが供述調書を法令に違反する無効なものであるとする趣旨をもつてその証拠能力を否定して原判決を非難する所論は採用できない。
而して、所論(三)において、原判決が証拠に採用している田島染一の検察官に対する供述調書(記録第三百九十二丁以下)、及び小池キヌの検察官に対する供述調書(記録第四百十七丁以下)に形式上の違法があると主張して原判決を非難しているがその如何なる点において形式上の違法があるのか、その主張に明白を欠くものがあるが、何れにしても、これら各供述調書の証拠能力を否定すべき瑕疵は記録上これを確認するに由がない。所論また採用するに由がない。論旨はすべて理由がない。