東京高等裁判所 昭和28年(う)3870号 判決
被告人 石田藤吉
〔抄 録〕
原判決挙示の証拠によれば犯意の点を含めて原判示犯罪事実即ち昭和二十七年十月一日施行の衆議院議員の総選挙に際し、被告人等はいずれも新潟県第三選挙区から立候補の届出をした右候補者田中角栄及び同大野市郎のため選挙運動をしていた五十嵐孫一から右両候補者をして当選を得しめる目的でそれぞれ選挙運動の依頼を受け、その報酬並びに投票取纒の資金として供与されるものであるの情を知りながらそれぞれ原判示日時場所で原判示金円の供与を受けたことを肯認するに十分であつて、所論のように右犯罪事実を認定するに原判示証拠のみによつては十分でないとは認め難く、又記録を精査検討しても原判決には所論のような事実認定に過誤あることを発見できない。而して単に候補者を特定しないで莫然と自由党所属立候補者全員の当選を期するため有効適切な選挙運動を依頼しその目的のために党活動資金の授受がなされた場合の如きは、場合により公職選挙法第二百二十一条第一項第一号又は第四号等の犯罪を構成しないことあるは洵に所論のとおりであるが、本件においては定員五名の新潟県第三選挙区において孰れも特定の自由党所属の立候補者である田中角栄、大野市郎両名の当選を得るための選挙運動をすることの依頼を受けその報酬並びに投票取纒資金の授受であることは原判決が認定したところであるから右法条違反罪の成立するや勿論である。仮に右選挙において右第三選挙区においては自由党の立候補者は右両名の他に亘四郎があり同人を含めて自由党候補者三名全員のための選挙運動であつたとしても、右の昭和二十七年十月一日施行の衆議院議員選挙における新潟県第三選挙区における右三名の候補者と限定されその選挙運動である以上前記法条に該当する選挙運動であること論を俟たないところであつて、原判決が右候補者三名のための選挙運動を前記二名と誤認したとしても直接被告人等の刑責にも犯情にも何らの影響がないからこの誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかとはいい難いところである。以上所論は要するに原審の採用しなかつた被告人等に有利な証拠のみを綜合して構成した独自の見解に立脚して正当な原判決の事実認定を攻撃するものであつて到底これを容認するに由のないものである。