東京高等裁判所 昭和28年(う)4005号 判決
被告人 杉田軍次
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
(一) 本件記録に徴するに、原判決認定の判示第一の(イ)乃至(ヘ)の事実と、これに対応する起訴状記載の公訴事実第一別表一記載の事実とはその表現において異なるものがあることは所論のとおりである。しかし右起訴は、被告人が判示各小切手を発行して自己の債務の支払に充て、或は自己の用途に供する為判示銀行支店において換金したときに会社所有の金員に対する業務上横領罪が成立するものとするに対し、原判決は右小切手に基き銀行において現実に金員が支払われた時に業務上横領罪が成立するものと認めたに過ぎないものであつて、両者は同一目的物に対する横領罪の既遂時期に関しその認定又は表現を異にしたものに外ならないのであるから、これを以て所論のように公訴事実の同一性を害するものといえないことは勿論、両者は訴因を異にするものでもない。故に原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。
(二) 原判決が起訴状記載第三の公訴事実(業務上横領)について、これを判示第三のように認定し、背任罪の成立を認めていることは所論のとおりであるが、右は右公訴事実に表示されてある抵当権設定の登記手続をしたと云う事実が業務上横領罪を構成するか、背任罪を構成するかの法律的評価を異にしたに過ぎないのであり訴因の内容たる事実そのものに異なるところはなく、又右のように業務上横領と云う罰条を背任の罰条に変更認定することは被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞あるものとは認められないから、原審はこの点においても所論のような違法はなく論旨は理由がない。(最高裁判所昭和二六年(あ)第四六二六号昭和二八年五月二九日第二小法廷判決参照)