東京高等裁判所 昭和28年(う)4209号 判決
被告人 矢島昭男
〔抄 録〕
論旨第一点について。
原判決が、その理由において、窃盗既遂の事実を認定判示していることは所論のとおりである。而して、所論は、被告人の本件所為は、窃盗未遂であつて既遂ではないから、原判決には、この点について事実の誤認がある旨主張するにより、案ずるに、立川市米国空軍極東補給基地内におけるアメリカ合衆国国有財産の管理者は、同基地司令官であり、その権根が、同基地全域並びに該地域内にあるアメリカ合衆国国有財産に属する物件全部に及ぶと解すべきことは所論のとおりであるが、しかし、窃盗罪は、不法領得の意思をもつて、事実上他人の支配内に存する財物を自己の支配内に移したときは、必ずしも犯人がこれを自由に処分し得べき安全な位置に置かなくても、既遂となるものと解すべきところ、(最高裁判所昭和二三年(れ)第六七五号同年一〇月二三日第二小法廷判決参照)原判決挙示の証拠をそう合するときは、被告人の共犯者鈴木静は、窃盗の目的で、小沼某をして、原判示基地内の中央物資集積所にある米軍所有のフイルム九箱を起重機でトレーラーに積み込ましめ、小沼は、鈴木の依頼によつてそのトレーラーを運転し、その運転台のかたわらに鈴木を同乗させ、該物件を同基地内の屋外物資集積所まで運搬したものであることが認めえられるのであつて、鈴木静の右の所為は、不法領得の意思をもつて、事実上右基地司令官の支配内に存する前記フイルム九箱を自己の実力支配内に移したものと認めることが相当であるというべく、この所為は、窃盗既遂罪を構成するものといわなければならない。而して、原判決の判示事実は、右既遂の点をも含めてすべてその挙示の証拠によつてこれを肯認することができ、記録を精査してみても、右の認定が誤つているものとは考えられないから、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるものということはできない。論旨は理由がない。