東京高等裁判所 昭和28年(う)4241号 判決
被告人 松本栄次郎
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
原判決がその摘示にかかる前科受刑の事実を認定しながら、これに対応する被告人の前科調書(甲第十号証)を証拠の標目に掲げていないことは、まさに所論のとおりである。
そこで記録及び原判決を精査検討してみるに、原判決挙示の証拠のうち甲第一号証ないし第八号証は、いずれも同摘示の犯罪事実一及び二に対応するものであつて、前科受刑の事実に関するものではなく、その余の甲第九号証(被告人の司法警察員に対する供述調書)と被告人の原審公判廷における供述とだけでは、原判決摘示の前科受刑の事実を未だ具体的に認定することができず、ことに同摘示の第二犯が本件犯罪と累犯の関係にあることが明らかでなく、本件においては累犯加重の理由となる各前科受刑の事実は、前記甲第十号証によりはじめてこれを確認することができるのである。
しこうして累犯加重の理由となる前科受刑の事実は、刑事訴訟法第三百三十五条第一項にいわゆる罪となるべき事実そのものではないが、該事実に基ずいて刑を加重する場合においては判文にこれを判示し且つこれに対応する証拠の標目を示さなければならないものと解すべきところ、原判決は、前叙のとおり、累犯加重の理由となる事実を摘示し、且つ累犯加重の法案を適用しながら、該事実に対応する証拠の標目を示していないのであるから、該判決は刑事訴訟法第四十四条第一項第三百三十五条第一項に違反し、判決に理由を附さなかつた違法があるといわなければならない(昭和二年(れ)第一、五四六号、同三年一月二十八日大審院判決参照)。
論旨は理由があり、原判決は既にこの点において破棄を免れない。
更に職権をもつて調査するに、原判決が本件において二個の窃盗罪を認定し、これに対し累犯加重及び併合加重をするに当り、刑法第十四条の規定を適用していないことは判文上明白であるから、原判決には擬律錯誤の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。従つて原判決はこの点においてもまた破棄を免がれない。