東京高等裁判所 昭和28年(う)857号 判決
被告人 森正次
〔抄 録〕
一、論旨第一点一について。
被告人が原判示第二の如く昭和二十七年十一月二十五日正午頃から翌二十六日午後八時三十分頃迄の間判示場所に於て不法に所持した拳銃一挺は同判示第一の如く同月二十五日被告人が判示米軍基地内に於て窃取したものであることは判文上明らかであるがさればといつて所論の如く右不法所持が右窃盗行為と不可分的に接着した当然の結果であつて前者は後者に吸収せられ窃盗罪の外別に銃砲刀劍類等所持取締令違反の罪を構成しないと解すべきではなく即ち一は財産犯であるのに反し他は銃砲等の取扱を規整することにより主として公共の安全を確保するにあるのであるから両者全く其の被害法益を異にし仮令右の様な場合であつても互に別罪を構成するものと解すべく従つて原審が結局之と同一見解に出で原判示第一の窃盗の点は刑法第二百三十五条に同第二の拳銃所持の点は銃砲刀剣類等所持取締令第二条第二十六条に夫々該当する旨判示した点については所論のような違法ありとすることは出来ず此点に付いては論旨は理由がない。
二、論旨第一点二について。
本件起訴状によるときは公訴事実としては「被告人は法定の除外理由がないのに昭和二十七年十一月二十五日同二十六日同二十七日の三日間(原審第二回公判期日に於て同月二十五日二十六日の二日間と訂正)に亘り大宮駅前小暮旅館等に於てピストル一挺全弾丸十四発を不法に所持していたものである」と又其の罪名罰条としては「銃砲刀剣類等所持取締令違反同令第二条第二十六条」と記載されてある。
而して昭和二十五年十一月二十日銃砲刀剣類等所持取締令施行後の右弾丸即ち実包不法所持の点については同令中に之を処罰する規定なく専ら昭和二十五年十一月三日施行の火薬類取締法第二条第二十一条によるものと解すべきところ。
起訴状の記載によつては実包所持の点について単なる情状としてこれを記載したものに止まるのか或は又これについても公訴を提起し其の罰条たる右火薬類取締法各条の記載を遺脱したものであるか其の何れなるかを窺い知ることは出来ない。
かかる場合其の何れであるかは公判審理に際し被告人の防禦に影響するところ少しとしないばかりでなく殊に本件実包の不法所持が前示法令改廃の経過に鑑み起訴状記載の罰条と異たる前示処罰法令に該当する点に思を致せば原審は須らく検察官に釈明して此点を明らかにし審理判決しなければならなかつたのに記録上右措置に出でた形跡なく原判決書によるときは其の事実摘示第二に於て起訴公訴事実第二記載の前示事実を其の儘認定判示し乍ら銃砲刀剣類等所持取締令第二条第二十六条のみを適用挙示したに過ぎないのであつて原審は此の点について其の審理を尽さず延いては法令の適用を誤つた違法あるものと謂わざるを得ず右各違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は到底破棄を免かれない論旨は結局理由がある。