東京高等裁判所 昭和28年(ナ)3号 判決
原告 吉田聖一
被告 東京都選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「昭和二十七年十月五日施行された東京都千代田区教育委員会委員選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として左記のように主張した。
昭和二十七年十月五日施行された東京都千代田区教育委員会委員の選挙は、定員は四名で、九名が立候補し、原告と訴外柴田孝吉とは共に立候補したが、原告は次点で落選し、柴田孝吉は三位で当選した。柴田孝吉は、右選挙の公示された同年九月二十日の前である九月十三日以前に、千代田区自由党支部役員会の席上で、教育委員選挙に立候補する決意を述べた上、その支持を要望して、選挙公示以前に選挙運動をなした。又柴田孝吉は、当選を得る目的で、昭和二十七年九月十三日発行の公称一万部と称する千代田週報第二二四号の紙上に、「教育委員候補のうごき」と題する記事の中に、「柴田孝吉決意表明」との見出しの下に「元区会議長神竜小学校P、T、A、会長柴田孝吉は先日自由党支部役員会の席上で、教育委員選挙に立候補する決意を述べ、支持を要望した」旨の記事を掲載せしめて、その当時右新聞紙を同区内有権者多数に頒布せしめて事前運動をなした。
何人でも選挙期日の公示以前の選挙運動は、公職選挙法第一二九条第八六条の規定によつて禁じられているものであるところ、柴田孝吉は上記のように事前運動をなしたものである。ことに、千代田週報は上記選挙区内唯一の有力紙で、神田地区内に八千部麹町地区内に二千部合計一万部が頒布せられているが、選挙公示以前において、一般有権者は選挙に対し多大の関心と注意とをよせていて、候補者に対しては白紙である折に、公刊の新聞紙にこのような記事が掲載されることは、一般有権者に影響するところ極めて大である。ことに上記選挙のように、僅か数百票の差で当落がきまるような場合においては、選挙全体の効力に重大な影響を及ぼしたものといわなければならない。従つて、上記選挙は、その自由と公正とが著しく害されたものであるから、無効であるといわなければならない。よつて、本訴請求に及ぶのである(立証省略)。
被告指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として左記のように述べた。原告主張の千代田区の教育委員選挙において、委員の定員が四名で、その立候補者が九名あり、柴田孝吉が三位で当選し、原告が次点で落選したことと、原告主張のような記事が掲載された千代田週報が配布されたことは、いずれも認める。その発行部数の点は不知、原告主張のように、選挙の自由と公正とが著しく害せられたとの点は否認する。たとえ、原告主張のような事実があつたとしても、それがために選挙の全部又は一部が無効となるようなことはない(立証省略)。
三、理 由
昭和二十七年十月五日に施行された東京都千代田区教育委員会委員の選挙は、定員四名で、九名が立候補し原告と柴田孝吉とは共に立候補し、原告が次点で落選し、柴田孝吉が三位で当選したことと、同年九月十三日発行の千代田週報第二二四号の紙上に、原告の主張のような記事が掲載されたことは当事者間に争なく、右週報の発行が選挙の公示された同年九月二十日前であることは被告の明に争わないところである。成立に争のない甲第五号証と証人関知義の証言によれば、柴田孝吉が同年九月十三日以前に千代田区自由党支部役員会の席上で、教育委員会選挙に立候補する決意を述べた上、支持を求めたことがあることを推認することができる。又証人関知義の証言によれば千代田週報は発行部数約一万部で千代田区内に頒布されていることを認めることができる。
教育委員会の選挙の無効を主張し得るのは、選挙の規定に違反し選挙の結果に異動を及ぼすおそれのある場合であり、選挙の規定に違反するとは、原則として選挙管理委員会の管理執行に関する規定に違反するものであるところ、原告主張のような選挙の公示前の選挙に影響を与えると思はれるような行為については、直接選挙管理委員会が管理執行すべき事項ではなく、公職選挙法第一二九条第二三九条で処罰せらるべきかどうかの事項である。選挙の管理執行に関する法規に直接違反しなくとも、選挙が著しく公正を欠いた手段によつて行われたと認むべき場合には、選挙の規定に違反したものとして選挙を無効とすべきではあるが、上記認定の原告主張の事実――上記認定の新聞記事を柴田孝吉が掲載せしめたとの事実は、これを認めることのできるなんの証拠もない――を以てしては、未だ選挙が著しく公正を欠いた手段によつて行われたとは認めることができない。
そうであるから、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 村松俊夫 高野重秋 中村匡三)