大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1054号 判決

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。控訴人が昭和二十六年七月十九日提起した訴願に対し同年八月十三日被控訴人のなした訴願棄却の裁決を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、控訴人訴訟代理人において「一、本件第一次買収計画の目的となつた十二筆の農地中四筆(原判決添附目録第二記載)については、従前主張の如く控訴人と小島村農地委員会と協議の結果、これを買収目的から除外したのであつて、これにより控訴人としては最早この四筆に関する限り、再び買収されないという既得の権利を有するものである。しかるに本件買収計画において、繰り返し右四筆をも含めた本件十二筆の農地につき買収計画を樹立するが如きは、控訴人のこの既得権を侵害するものであり、村農地委員会としてはその職権の濫用でもある。その他小島村農地委員会は昭和二十五年二月二十一日に、同年三月五日を買収期日とし前記係争の農地四筆につき農地買収計画を樹立した旨控訴人に通知してきた(甲第十号証の一参照)ので、控訴人は異議の申立をしたところ、同委員会は昭和二十五年四月十三日右買収計画を取消した旨通知してきた(甲第十号証の二)。また昭和二十四年三月二十六日小島村農地委員会のなした本件農地の買収計画樹立に対し、控訴人は異議申立をなし、この異議却下決定に対し同委員会に同年同月十七日訴願書を提出したに拘らず、八ケ月間もそのまま放置してこれが申達をなさず、結局昭和二十五年二月二十一日右訴願書を控訴人に返戻してきた。以上の如く本件に関し小島村農地委員会の執つた措置は、明らかに職権濫用に該当するものである。」と述べ

被控訴人指定代理人において「小島村農地委員会の本件農地に関する買収計画樹立並びに取消の経緯は下記のとおりである。即ち(イ)第一回買収計画公示の日―昭和二十三年九月十八日、右計画取消の日―昭和二十四年三月三日、(ロ)第二回買収計画公示の日―昭和二十四年三月二十六日、右計画の取消の日―昭和二十六年六月十九日、(ハ)第三回買収計画(本件取消を求める訴願裁決の対象となつている原処分)公示の日―昭和二十六年六月二十六日」と述べた外は、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。(証拠省略)

三、理  由

原判決理由冒頭から八行目末尾まで摘示されている(記録第一一一丁表初行から八行目まで)事実は当事者間に争がない。(尤も被控訴人指定代理人が当審において、小島村農地委員会が本件十二筆の農地につき樹立した買収計画並びに取消の経緯につき主張するところによれば、(イ)昭和二十三年九月十八日樹立した買収計画は昭和二十四年三月三日処分庁によつて取消され、(ロ)更に同年三月二十六日改めて第二次の買収計画を樹立したのを昭和二十六年六月十九日取消し、(ハ)更に買収計画を樹立し(本件取消を求める訴願の対象となつている原処分)同年六月二十六日公示せられたというにあつて、右の事実は成立に争のない乙第一号証の一ないし五、同第二号証の一ないし四と、当審証人鈴木敏一の証言によつて認め得られ、前示争のない事実として摘示した控訴人の主張するところによれば、前示(ロ)の買収計画樹立の点が看過されておつて、この点において両者そごする点があり、控訴人の主張する昭和二十三年九月十八日の買収計画に対する異議申立、その却下、訴願の提起並びにその棄却の裁決とは、前示第二回目の昭和二十四年三月二十六日の買収計画に対するものではないかということが、成立に争のない甲第七号証と当審証人室伏礼二の証言(記録第一五八丁表)によつて窺えないでもないが、いずれにしても後記(一)ないし(四)の争点に関する法律上の判断をするについて影響がないから、この点はしばらく措く)そこで、控訴人が本件農地買収計画の違法の点なりという(一)ないし(四)の主張につき検討するに、これらの点に関する当裁判所の判断は、左記の点を附加する外原判決の説示するところ(記録第一一一丁表十行目以下第一一七丁表九行目まで)と同一であるから、これをここに引用する。

原判決理由の外に附加する諸点は次のとおりである。

(一)及び(二)について。

本件十二筆の農地中原判決添附目録第二記載の四筆につき、小島村農業委員会(当時農地委員会以下村農地委員会と略する)において控訴人と協議の上、または控訴人の異議申立を正当と認めて、これを買収計画中から除外し、且つ被控訴人もこれを承認していたのであるという控訴人の主張事実については、原判決もこれを認むべき証拠なしとして排斥したのであるが、(記録第一一二丁表十行目以下同丁裏一行目)この点に関する当審証人室伏礼二の証言、当審における控訴人本人の尋問の結果は、当審証人鈴木敏一、同望月健吉の各証言に照らし輙すく採用し難く、成立に争のない甲第九、第十号証の各一、二その他当審で新たに控訴人の提出援用する全証拠を以てするも、これを肯認することはできない。尤も右甲第十号証の一、二によれば、村農地委員会長名義を以て控訴人宛昭和二十五年二月二十一日附前記四筆につき買収計画を樹立した旨通知し、更に同年四月十三日附をもつて右計画を取消した旨通知した事実あることはこれを認め得るけれども、かくの如き事実あればとて、村農地委員会がこれに拘束せられて再び右四筆につき買収計画を樹立できないものでなく、苟くも買収の要件の具備する限り、改めて買収計画を樹立するを妨げないと解するのが相当であつて、これを以て控訴人の既得の権利を侵害するものとし、或は村農地委員会の職権濫用行為として、本件買収計画(本訴において取消を求める訴願裁決の対象となつている買収計画)そのものを違法無効と解すべきでない。そもそも本件買収計画樹立につき村農地委員会に職権濫用行為ありといわんがためには、単なる手続上の過誤があつたというのみでは足らず、結局本件農地については如何なる点からみてもこれを買収する理由のないことを知りながら、故意に農地買収に名を藉りて控訴人から本件農地を取上げんと図つたと認めるに足る事情の存することを要すべきところ、弁論の全趣旨並びに当審証人鈴木敏一、同望月健吉の各証言によれば、村農地委員会は本件買収計画樹立に至るまでの間に、手続上の過誤を理由に前後数回に亘り、処分庁として自らなした先の買収計画を自発的に取消し、改めて同一農地につき買収計画を樹立したことなどの経緯を認めることができ、この点手続上遺憾の点はあつたにしても、一般に公益上の見地から、行政処分に瑕疵があれば処分庁自らこれを取消し得るという原則(ただし訴願に対する裁決のように裁判の実質を有する行政処分、〔昭和二十九年一月二十一日最高裁判所判決、判例集第八巻第一号一〇二頁参照〕その他その行政処分の取消によつて失われる法律秩序の破壊が、取消を認める公益上の必要よりも重視せらるべき特別の場合は、この原則も制約を受けることは勿論であろうが本件の場合そのいずれにも該当しない。)に照らし、別に違法と目すべきでなく、その他控訴人の提出援用にかかるすべての証拠を以てしても、到底村農地委員会において、前述したような職権濫用行為があつたことを認めるに足る事跡はないから、控訴人のこの主張は採用できない。

(三)について。

最高裁判所昭和二十五年(オ)第九八号昭和二十八年十二月二十三日大法廷言渡判決(判例集第七巻第十三号一五二三頁参照)の判示する如く、自作農創設特別措置法第六条第三項本文に定める農地買収対価は、憲法第二十九条第三項にいわゆる「正当な補償」にあたると解すべき以上、この価格を以て地主から農地を買収し、これと等しいような価格で小作人に売渡すことを自創法が定めているからといつて、これを以て地主と小作人とを差別扱し憲法第十四条に定める平等の原則に反するものと謂うことはできないことは、原判決も説示するとおりである。元来憲法第十四条に定める法の下の平等の原則も、公共の福祉のためにその制約を受けることは、第十二条第十三条に照らし明らかであると共に、この平等の原則もあらゆる場合あらゆる点で、国民が絶対に平等であることを要求しているものでなく、平等の要請そのもののうちに合理的な制限を当然に含んでいるのであつて合理的な差別はその違反に当らない。自創法に定める農地の買収売渡も、農地の民主化という公共の福祉の見地から定められたものであり、その対価も前示「正当な補償」に当ると判定せられる以上、たとえ、実質的にはこれより利益を受け或は不利益を蒙る者が生じる結果となつても、右自創法の規定、ひいてこれに基いてなされた本件買収計画を定めた行政処分を以て、憲法第十四条に反する違法の処分であるとする控訴人の主張は、到底採用できない。

以上の理由により、控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!