大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1317号 判決

一、東京都千代田区西神田二丁目五番地所在木造瓦葺二階二戸建居宅一棟が控訴人の所有で、控訴人が昭和二、三年頃より右家屋のうち道路より向つて左側の一戸建坪一一坪三合三勺、二階一〇坪七合五勺を、被控訴人熊谷イシに期間の定めなく賃貸して来たこと、控訴人が被控訴人熊谷イシに対し昭和二七年一月三〇日内容証明郵便で、右被控訴人が控訴人の承諾なしに本件家屋の二階を被控訴人小畑恒夫及び訴外笠原清に、階下を被控訴人熊谷コトヨにそれぞれ転貸したとして、本件家屋の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面が同月三一日被控訴人イシに到達したことは、当事者間に争がない。

そこで右無断転貸の有無について審究するに、被控訴人熊谷イシは本件家屋において助産婦業を営んで来たが、その後助産所の認可規準が変更せられ、本件家屋の設備のみでは右規準に達せず、新規則に規定する各種の構造設備を備え、主務官庁の新たな認可を得るのでなければ、その経営をなすことができなくなつたので、昭和二六年一一月本件家屋のすぐ近くの千代田区西神田二丁目六番地の宅地に総坪数二二坪の助産所新築に着手し同年一二月頃完成したが、右新築家屋は助産所として使用するのに一杯で、居住その他の目的に使用する余裕はないので、昭和二七年一月一五日助産所経営に必要な物及び患者の食事に要する勝手道具のみを右新築家屋に移し、住民登録の変更や引越の挨拶等もせず依然本件家屋を使用していること、被控訴人熊谷コトヨは被控訴人熊谷イシの妹で、昭和二三年三月二〇日から本件家屋に同居し、被控訴人イシを助けて助産婦業の手伝をするかたわら同人の扶養を受けているものであつて、被控訴人熊谷イシから本件家屋の転貸を受けている関係にあるものではないこと、及び訴外笠原清は被控訴人熊谷イシが雇傭していた看護婦笠原ふさえの夫で、同人等は昭和二六年八月頃結婚し、その住居に困つていたので、ふえさに引続き勤務して貰う必要上、被控訴人イシは右両名を本件家屋の二階裏側の六畳間に住まわせたものであり(同人等は昭和二七年夏頃他に移転し現在は本件家屋に居住していないことは弁論の全趣旨により明らかである)、又被控訴人小畑恒夫は笠原清の友人で、昭和二六年一〇月頃同人を頼つて来て一寸置いて貰いたいと被控訴人イシに無断で本件家屋に入り込んだもので、後に被控訴人イシも致し方なく仮の寢泊りだけを許し、もし新たに助手を雇入れる場合は直ちに出て貰う約束で、引続き本件家屋の二階表側六畳間に住まわせているものであり、笠原清、被控訴人小畑恒夫に対する右居住の許容はいずれもこれを転貸借と認めざるを得ないことは、原判決理由の説示しているとおりであるから、右原判決の理由を引用する。

而して、以上認定のような事情の下における被控訴人熊谷イシと笠原清並びに被控訴人小畑恒夫との間の転貸借は、賃貸人たる控訴人に対する信頼関係を破るような背信的行為とは到底認め難く、控訴人が右転貸借を理由として民法第六一二条に基く解除を主張するのは権利を濫用するものと言わなければならない。

二、控訴人は、当審において新たに、本件家屋賃貸借契約は控訴人のなした正当事由に基く解約申入によつて終了したと主張し、被控訴人等は、右主張をもつて請求の基礎に変更を生ずる訴の変更であると抗弁するけれども、控訴人の本訴請求は、本件家屋賃貸借の消滅を理由とし、所有権に基く家屋明渡の請求であり、右賃貸借終了の事由について控訴人は原審において無断転貸に基く契約解除を主張したが、控訴審において新たに正当事由に基く解約申入の主張を追加したのに過ぎないのであるから、右は控訴人の攻撃方法の追加であつて、新訴の追加でなく従つてもとより訴の変更となるものではない。又被控訴人等は右攻撃方法の追加は時機に後れたものであるから却下せらるべきものであると主張するけれども、控訴人の右新たな主張のため本件訴訟の完結を遅延せしめるものと認め難いから、たとえ右主張が時機に後れた攻撃方法であるとしても、許容せらるべきものである。

三、よつて進んで控訴人主張の解約申入について考えるに、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和二七年一月二〇日被控訴人熊谷イシに対し、「貴女も新しく家を建てたのだから、本件家屋に用はないと思うが私も本件家屋に子供を住まわせたいと思うので明渡して貰いたい」と申し出でたことが認められるので、同日控訴人から賃貸借解約の申入がなされたものと認めるべきである。よつて右解約の申入が正当の事由を具備しているか否かについて考えるに、被控訴人熊谷イシが新築した家屋は助産所として使用するのに一杯で居住その他の目的に使用する余裕のないことはさきに認定したところであるから、たとえ当審における控訴人本人の供述によつて認められる控訴人の娘夫婦が現在住んでいる間借部屋をその家主から明渡請求を受けているため、控訴人としてはその娘夫婦を本件家屋に居住させる必要があるとしても、当事者双方の本件家屋使用の必要性を比較検討すれば、控訴人はいまだ本件家屋の賃貸借を解約する正当の事由を有するものとは認め得ない。

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