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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1558号 判決

イ、被控訴人が生糸の売買を業とする商事会社であることは当事者間に争がない。そこで被控訴人と控訴人との間に、被控訴人主張のような経緯により本件生糸の売買契約が成立したかどうかの点につき審按するに、先づ控訴人は、昭和二十六年二月十日頃その息真田清治に対し、同年四月横浜渡しで生糸白二十一中A格十俵の買付方を依頼した事実については、原審では指値で買付を委託したという趣旨でこれを自認したが、当審ではこれを否認し、先物三月渡しの白二十一中AまたはAA格の品があるかどうかを確めるべく調査を依頼したに過ぎないと主張し、被控訴人は右自白の撤回に異議ある旨主張するところ、成立に争のない甲第一、第二号証の各一、二、乙第一号証、乙第五号証の二当審における控訴人本人の尋問の結果により成立を認める乙第二十七号証の一、二、原審証人郷田清作、同野崎朋助、同本島芳、同川口正一、同真田清治、当審証人本島茂(第一、二回)、同郷田清作、同真田清治の各証言並びに原審及び当審における控訴人本人の尋問の結果(ただし右真田清治及び控訴人本人の供述中後記認定に反する部分を除く)を総合して考えると、被控訴人が本件生糸売買契約成立の経緯に関し主張する前掲事実摘示 (一)記載の事実(ただし後段法律上の見解の点を除く)は優にこれを肯認することができる。(控訴人が被控訴人に対し昭和二十六年四月十九日に金二十万円を差入れたことは、その趣旨においてはともかく右授受の事実のみは控訴人の認めるところである。)そして後記第二において認定する如く、その後本件当事者間において行われた諸般の折衡経過の事実は、前示認定を支持する証左となり得るものであつて、前記引用の証人真田清治及び控訴人本人の供述中右認定に反する部分は採用し難く、その他控訴人の提出援用にかかる全証拠を以てするも、到底この判断を左右するに足らない。

してみると右認定の事実関係の下においては、この場合被控訴人主張の商法第五百四条の適用の有無を論ずるまでもなく、右認定の本件売買契約は控訴人と被控訴人との間に有効に成立するに至つたと謂うべきである。

ロ、次に控訴人は、本件の如き生糸の売買取引については、当事者双方売買約定書を作成しこれに署名捺印することによつて契約が成立する商慣習が存在し、本件当事者もこれによる意思があつたものであるとし、或は本件生糸売買契約の拠るべき準則たる輸出生糸売買基準第四条を引用し、先物約定である本件売買において双方当事者の署名捺印ある売買約定書が交換されていないことは、契約の成立していない何よりの証左であり、少くとも契約の成否に関する紛争の裁定基準となるものであると主張するから、この点について考えてみるに、前顕甲第一、二号証の各一、二、並びに乙第一号証によれば、本件生糸の売買につき契約当事者双方の署名捺印ある生糸売買約定書が交換されていないことは明らかであるが、右甲第一号証の二及び乙第一証の記載と原審証人川口正一、当審証人佐野照人同石川子一の各証言並びに成立に争のない乙第三十四号証を総合すれば、本件生糸売買契約は昭和二十五年四月一日以降横浜生糸問屋協会と横浜生糸輸出協会の申合せによつて取極められた輸出生糸売買取引基準(乙第三十四号証参照)に準拠して締結されたものであるところ、その第四条の文言自体によつても、先物約定の場合に売買当事者双方の署名捺印ある売買約定書の交換を以て、契約の成立または効力発生要件とした趣旨であるとは解し難いのみならず、前記引用の各証人の証言によつても、右は単に後日の紛争を防止するため一応の基準として、成るべくかかる約定書の交換を慫慂した訓示的規定であつて、これに従わないからといつて契約が始めから成立しないとか、効力が生じないとかいう筋合のものでないことを窺い得るから、(この点に関する当審証人白川産郎の証言は採用できない)かかる約定書の交換がなかつたということは、敢えて契約の成立に関する前示認定を妨げるものでない。尤も前示取引基準に以上のような準則がある以上、契約の成否に関する紛争裁定において、かかる約定書の交換の有無はその成否を決する重要な一資料とはなり得るであろうけれども、このことを以てしても前段冒頭引用の各証拠に照らし、到底前示認定の契約の成立を否定するに足らない。その他控訴人の提出援用にかかる全証拠を以てするも、双方の署名捺印ある売買約定書の交換を以て、売買契約の成立または効力発生の要件とする商慣習あることを認め得る証拠はないから、控訴人のこの主張は採用することはできない

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