大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1847号 判決

控訴人は、まず本件家屋は地代家賃統制令の適用を受くべき併用住宅であつて、その公定賃料は一箇月二百円を超えないと主張する。しかしながら当審証人堀越和作の本件家屋は間口約一間半で建坪六坪のうち表に四坪位の店舗があり、その奥に二畳位の一部屋があつて、残りは土間となつており、控訴人は商売をはじめるために賃借した旨の供述によれば本件家屋は店舗として賃貸せられた事実を認めるに足るべく、控訴人がたまたま本件家屋に起居していたとしても、これをもつて地代家賃統制令の適用を受くべき併用住宅であると認めることができず他に右事実を認めるに足る確証はない。そして控訴人が本件家屋を賃借したのは昭和二十六年三月一日であるから、本件家屋の賃貸借については昭和二十五年七月十一日改正地代家賃統制令第二十三条第二項第三号第一項により同令の適用を受けないものというべく、従つて被控訴人が本件催告をなすにあたり約定賃料を以つて延滞賃料の額を算定したのは相当であつて右催告額が過大であるとの控訴人の主張は理由がない。

次に控訴人は、本件賃貸借にあたり控訴人は被控訴人に対し敷金として金八千円権利金として金六万円を支払つたので、右催告にかかる延滞賃料は右敷金による弁済の充当または相殺及び右権利金返還債権を以てする相殺により全部消滅したと主張し、右敷金並びに権利金授受の事実は被控訴人の認めるところである。しかしながら敷金は賃借人の賃料支払債務を担保する目的を以て賃貸借の当事者間に授受せられる金銭であつて、賃借人が賃料の支払を怠つた場合に当然これが支払に充当されるものではなく、賃貸人は敷金を以てこれが支払にあてると否との自由を有し、これは賃貸人の権利であるから、たとい賃借人が賃料の支払を怠つたときでも賃貸人は敷金を以てこれが支払にあてることなくして賃料の支払を請求することができるものというべく、従つて右敷金を差し引かないでした被控訴人の本件催告には何ら不当の点はない。また控訴人が本件催告前相殺の意思表示をしたことはこれを認むべき証拠なく、また賃貸借契約解除後になした相殺は、たといこれによつて延滞賃料債務が消滅したとしても既に生じた解除の効果に消長を来すものでないので、かかる相殺を主張して本件賃貸借契約解除の効力を争う控訴人の抗弁は既にこの点において理由がないのみならず、前認定のように本件賃貸借については地代家賃統制令の適用がないから、本件賃貸借にあたり当事者が本件建物が有する特殊の場所的利益の対価として、または単に賃借権設定の対価として権利金の授受を約するは自由であり、また本件権利金の額が不当に多額であり、その授受が被控訴人が控訴人を強要してなさしめたことを認めるに足る証拠もないから、控訴人は被控訴人に対し、右権利金六万円の返還を請求する権利がないものというべく、これを以てする控訴人の相殺の意思表示はその効力を生ずるに由ないものというべく、ただ契約解除後敷金返還請求権を以てする相殺の意思表示は、解除の効力には影響を及ぼさないが、その限りにおいて効力を生じ、控訴人の延滞賃料支払債務はその限度において消滅したものとみるべきである。

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