大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2085号 判決

控訴人両名訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人橋本亀次郎同橋本キヨに対し、別紙物件目録<省略>記載の各不動産(それぞれ各控訴人の所有の表示ある分)につき、被控訴人を債権者及び抵当権者とする昭和二十七年八月十一日浦和地方法務局大宮出張所受付第二九二三号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人を債権者とし、訴外橋本産業株式会社を主債務者、控訴人橋本亀次郎同橋本キヨを連帯保証人とする、東京法務局所属公証人牧野勝作成第一六七一八一号保証契約公正証書の無効なることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方代理人の事実上の陳述は、控訴人両名訴訟代理人において、控訴人等は、被控訴人が訴外大阪合同株式会社に対する「見せ証文」以外には使用しないからと言明して要求したのに応じ、特に形式的のものであることに念を押して、白紙委任状及び印鑑証明書を被控訴人に交付したのであつて、「抵当権設定登記及び公正証書作成用」(記録二一三丁表三行目)として交付したのではない。控訴人等は、会社の商取引代金債務につき個人財産に対し担保を設定すべき法律上の理由のないこと、すでに本件不動産は訴外第一信託銀行のため抵当権が設定してあり、且つ同銀行との間に第三者に対して担保権を設定しないという過怠約款付の特約があること、並びに本件不動産の権利証が同銀行の手裡に存するので登記ができないことを理由に、抵当権設定登記をすることを強く拒否し、更に被控訴人から権利証が滅失したことにして保証書により登記をして貰いたいという要求があつたのも、堅く拒絶した。然るに被控訴人は、権利証が第一信託銀行に保管されていることを同銀行に赴いて確かめながら、前記のように見せ証文として交付した控訴人等の白紙委任状を不正に使用し未知の訴外者を控訴人等の代理人に選任し、委任のない虚偽の事項をこれに記入して、保証書による本件抵当権設定登記申請をなし、並びに本件公正証書作成をなしたのであると補足的に陳述し、被控訴人訴訟代理人において、控訴人等代理人の右陳述に対し、控訴人等がその主張するような理由で抵当権設定登記をすることを拒絶したこと、控訴人等から交付せられた委任状が白紙委任状であつたこと、昭和二十七年七月三十日頃権利証の所在を確めに第一信託銀行に赴いたこと、その委任状に控訴人等が訴外者を選任して登記申請や公正証書作成に必要な事項を委任する旨の記入をしたこと、それを用いて登記申請並びに公正証書作成をしたことは認めるが、その他の点は否認すると述べた外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

別紙物件目録記載の各不動産が、それぞれ各表示の如く控訴人橋本亀次郎及び同橋本キヨの所有である事実、右不動産につき昭和二十七年八月十一日浦和地方法務局大宮出張所受付を以つて、訴外橋本産業株式会社の負担する債務のため控訴人等主張の如き抵当権設定登記がなされている事実、昭和二十七年八月六日東京法務局所属公証人牧野勝作成にかかる控訴人等主張の如き公正証書の存する事実は当事者間に争がない。

被控訴人は、控訴人等訴訟代理人が昭和二十八年九月二十五日午前十時の原審口頭弁論期日において、右公正証書の作成に関し「被控訴人より何等の交渉もなくまた公正証書作成の趣旨で委任状及び印鑑証明書を被控訴人に交付したことはない」と述べたのは、時機に後れたものであり、且つ従前の自白を撤回したものであるとして異議を述べているが、控訴人等訴訟代理人が右口頭弁論期日に、同日付準備書面に基ずき右のように陳述したことは、同期日の口頭弁論調書によつて認められるけれども、本件記録編綴にかかる控訴人等提出の各準備書面(昭和二十七年十月三十日付及び昭和二十八年九月二十五日付)、原審各口頭弁論調書の記載並びに弁論の全趣旨を総合してみると、これは原審における最終の口頭弁論で、控訴人等訴訟代理人が本件公正証書の無効であることの原因として主張する事由を、訂正且つ補足的に釈明したもので、別段従前の主張事実と相容れない事実を主張して自白を撤回したものと解すべきではなく、またこれがため訴訟の完結を遅延せしめるものとも認められないから、被控訴人の右異議の主張は採用しない。

而して控訴人等は、前記抵当権設定登記及び公正証書は、その主張する如き理由によつていずれも無効であると主張するから審按するに、控訴人等が昭和二十七年七月二十四日被控訴人に対し白紙委任状及び印鑑証明書各二通宛を交付したことは、当事者間に争なく、控訴人等は、右は被控訴人がその債権者である訴外大阪合同株式会社に見せて納得させるためにのみ用うることを特約して交付したものであるに拘らず、被控訴人が控訴人等主張のような方法でこれらを擅に利用したというのであるが、前記抵当権設定登記及び公正証書が無効であるか否かの点に関する当裁判所の事実の認定及び法律上の判断は、当審における証人三浦哲志郎の証言、被控訴会社代表者堂本富太郎本人尋問の結果並びに当審における証人加藤富士の証言、控訴人橋本亀次郎、同橋本キヨ各本人尋問の結果(但し後記措信できない部分を除いて)を参酎してみても、次に述べるような説示を附加する外、この点に関する原判決理由中の説示と同じであるから、ここにこれを(記録二一五丁裏八行目より二一七丁裏末行までを)引用する。但し乙第六号証は成立に争なきものと改める。当審における証人加藤富士の証言、控訴人両名の各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は他の各証拠資料に対比し措信できない。

附加する説示というのは、「控訴人等は、本件不動産は訴外第一信託銀行のためにすでに抵当権が設定してあつて、同銀行との間には第三者に対し担保権を設定しないという特約があり、権利証も同銀行が保管しているので登記ができないことを理由に、本件不動産に抵当権設定登記をすることを拒み、更に権利証は滅失したことにして保証書により登記して貰いたいという、重ねての被控訴人の要求をも拒んだこと、被控訴人が権利証の存在を確かめるため第一信託銀行に赴いたことは、当事者間に争がないけれども、訴外橋本産業株式会社(控訴人橋本亀次郎がその取締役社長である)が振出した乙第一号証の約束手形の支払を猶予して貰うために、控訴人等が一応白紙委任状及び印鑑証明書各二通宛を被控訴人に交付して本件抵当権設定及び公正証書作成を承諾したものであること前示認定の如くであるから、被控訴人が右白紙委任状にそれぞれ必要な事項を記入してこれを行使したからと云つて、それを控訴人等主張の如く不正な行使ということはできない。また本件抵当権設定登記申請に保証書を用いたことは、前記のように当事者間に争がないが、いわゆる保証書を添付して登記申請をすることのできるのは、不動産登記法第四四条に規定する字句によれば『登記済証が滅失したるとき』であるけれども、これは単に権利証(登記済証)そのものが物質的に消滅したときの外、権利証が客観的に存在しているが登記義務者の手裡に存せず、且つその所在が判明していても、登記義務者がこれを取戻すことが一般取引通念上殆んど不可能と認められる場合をも包含するものと解すべきで、前示の如く控訴人等が本件不動産に抵当権を設定することを承諾し、これが登記に必要なら白紙委任状及び印鑑証明書を交付したものであると認定した本件の場合にあつては、たとえ被控訴人において権利証が第三者の手中に存することを知つており、且つ保証書によつて登記申請をなすことを登記義務者から明確には承諾せられなかつたとしても、この場合の登記を目して、刑法第一五七条に該当する犯罪行為であり、私法的には信義誠実則に背き、公序良俗に反する行為でありとする(控訴人等はかく弁論するが)には当らない。なお成立に争のない甲第一号証の一(本件登記申請書)には『不動産登記法施行細則第四五条の事項』として『権利に関する登記済証滅失』と記載してあるが、これは不動産登記法第四四条及び同施行細則第四五条の用いている字句そのままを慣例上踏襲したにすぎず、本件のような場合この程度のことは登記申請手続そのものを無効とする瑕疵とみるには及ばない。」というのであり、なお引用した乙第三号証に関し「控訴人等が当審で主張する乙第三号証についての証拠抗弁は、訴外橋本産業株式会社の社員が、乙第六号証と同一文言であると錯覚して同会社の社印を押捺したものであることを、認めるに足る証拠が十分でなく、また同号証のみによつて、控訴人等が被控訴人との間に法律上の拘束を受けるような事実を認定したのではないから、採用することはできない。従つて同号証を前顕事実認定の証拠資料に用うることは、原判決理由中に説示のとおりとする。」と附加する。

以上の次第であるから、本件抵当権設定登記及び公正証書がいずれも無効であるとして、前者についてはその抹消登記手続を求め、後者についてはその無効確認を求める本訴請求は、失当として棄却すべきものであり、これと同趣旨に出でた原判決は相当なりというべく、控訴人両名の本件控訴はその理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条第一項、並びに第九十五条、第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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