東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2087号 判決
しかし上記の運輸事務所長の一般的権限によれば、所長は管下路線における営業及びこれに附随する事項については、会社の一部局の長として上司の指揮命令を受けながらも、その範囲においては自ら会社のためにこれを処理する権限を与えられているものというべく、かかる事項についてはその業務の性質上常に一般顧客その他の第三者との間に取引関係を成立せしめることのあるのはみやすいところといわなければならない。しかのみならず、さらに右証拠を検討すれば、運輸事務所長は被控訴人会社の業務に関し、月額約五万円程度(この金額につき原審証人小原英雄は一ケ月金五千円ないし六千円程度と述べているがこれは信用しない)の手持金を有し、この金額の範囲内においてはもつぱらその独自の判断において事務所の日常の事務を弁ずるため、郵便切手を購入し、新聞を購読し、あるいは便所汲取をさせる等の代理権限を与えられていたものであることも認められるところである。
しかるに一方本件取引が行われた昭和二十五年当時においてはいまだ国内に一般物資が不足し、その入手が因難であつたため各種の銀行、会社団体等においてはその業務に必要な物資はもちろん、直接その業務に関係のない生活物資でも、その職員に対する、いわゆる福利厚生の一助として争つて各物品の取扱業者からこれを買入れ、その職員に有償または無償で配給していたことは多くみられたところであり、またかような物資の購入、配給について専従の係員さえおくものもあり、その購入にあたつても職員の団体としてするものもあるが銀行会社等が自らその名においてすることもあつたことは公知の事実である。
このような当時の一般世情のもとにおいて、前段認定のような相当の規模、組織を有する被控訴人会社玉川運輸事務所において前記のような権限を有する運輸事務所長を相手方とし、控訴人らが本件取引を行うにあたつて、同事務所長に右取引につき被控訴会社を代理する権限ありと信じたのは、かく信ずるにつき正当の事由があつたものと解するのを相当とする。