大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2456号・昭28年(ネ)1067号 判決

二、原審証人田中又五郎の証言(第一、二回)によりその成立を認める乙第三号証、原審証人新坂嘉四郎の証言(第一回又は第二回)によりその成立を認める乙第四、第五号証第七乃至第九号証及び第一六号証、原審証人野瀬雷三郎の証言によりその成立を認める乙第一〇乃至第一二号証、第一五及び第一八号証、原審及び当審における証人田中又五郎、同新坂嘉四郎(以上いづれも原審は第一、二回)及び同有元秀貞の証言竝びに原審における控訴本人の供述及び検証の結果を総合すると、本件建物は、控訴人が借り受けた当初は、殆んど外装のみの建物に近いバラック建で、水道電燈の設備及び建具等もなかつたので、控訴人がこれを利用し且つ店舗として改良するため、又雨漏り及び二階の落下を防ぐ等こをれ保存維持するため、控訴人主張の日時にその主張の如き用途及び金額の費用(但し控訴人が必要費であると主張する原判決事実記載の(七)、(十一)及び(十二)の費用については、その金額の点を除く)を支出したこと、右(七)の費用の金額は一、二〇〇円、(十一)の費用の金額は四、五〇〇円であること(右(十二)の費用の金額を明らかにすべき証拠がない。)以上の費用のうち、控訴人が必要費であると主張する原判決事実記載の(六)乃至(十一)の費用は本件建物の必要費であるが、その他の費用はいづれも有益費であつて、その価格の増加が現存することが認められる。故に、被控訴人は控訴人に対し、右必要費の支出額合計六万一、六二五円を償還すべき義務があり、右有益費については、控訴人の支出した金額と現存する増加額とが相違することの証拠がないから、被控訴人は控訴人に対し、その支出額合計一三万一、六五〇円を償還すべき義務がある。しかして、右必要費及び有益費はすべて、控訴人が本件建物の転借中に支出したものであることは、既に認定したとおりであるから、控訴人は被控訴人からその弁済を受けるまで本件建物の上に留置権を有するものというべく、控訴人の本件建物の占有が不法行為によることを前提として留置権の成立を否定する被控訴人の主張は理由がない。又被控訴人は。民法第六〇八条を根拠として、「控訴人は本件建物の転貸人である銀座貿易株式会社に対してのみ必要費及び有益費の償還を請求し得べく、控訴人に対する賃貸人でない被控訴人に対してはこれを請求し得ないから、本件建物の上に留置権を行使することは出来ない。と主張するのである。しかし、賃借人が、賃借建物を賃貸人でない所有者に返還する場合においても、これについて支出した必要費又は有益費をその囘復者から償還させることができ、その償還を受けるまで右建物の上に留置権を有することは、民法第一九六条第二九五条により明らかである。民法第六〇八条は、賃借人が、賃借建物について必要費を支出したときは、賃貸借の終了をまたず直ちに、又有益費を支出したときは賃貸借の終了の時に、賃貸人に対し償還を請求し得べきものとして、専ら賃借人の利益を考慮した規定であつて、物の占有者が建物の賃借人である場合には民法第一九六条の適用を排除し、賃借人は所有権に基いて建物の明渡を求める者に対しては償還を請求し得ないことを定めた趣旨のものではない。故に被控訴人の右主張は理由がない。

そこで、被控訴人の相殺の抗弁について案ずるに、控訴人が被控訴人に対し昭和二十六年四月二十三日以降本件建物の明渡済にいたるまで一ケ月二万円の割合による損害金を支払うべき債務を負担することは、前記のとおりであるから、昭和二十九年七月二六日の本件口頭弁論期日における被控訴人の相殺の意思表示により、被控訴人の右必要費及び有益費の償還債務合計一九万三、二七五円と被控訴人の右損害支払債務のうち、最初に弁済期の到来したものから順次右の対当額に達するまでの分―すなわち、昭和二六年四月二三日以降昭和二七年二月一一日まで一ケ月二万円の割合による損害金合計一九万二、六六六円五四銭及び同月一二日分の損害金六六六円六六銭のうち六〇八円四六銭―とは消滅したものというべく、従つて控訴人はもはや本件建物の上に留置権を行使してその明渡を拒むことはできない。

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