大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)34号 判決

遠藤栄造は被控訴会社の取締役であり、社員として同会社の販売方面の業務を担当していたのであるが、手形小切手の振出に関する権限を附与された事実なく(成立に争のない乙第四十五、第四十六号証参照)且つ会社とは別に隠に個人的の営業をしていたことが発覚した為め、昭和二十六年九月限り休職処分に付せられ、同年十月一日より一切会社業務と関係を絶つに至つたこと、右遠藤はその後会社金庫に保管してあつた代表取締役藤島末一の記名印社印職印等を盗み出し、昭和二十六年十一月二十六日本件手形外一通の手形を作成して、これを自己の取引上の債務の為め富士石油販売株式会社に差入れたのであるが(なお右手形振出原因たる取引は遠藤個人の取引であり、従つて被控訴会社手形記入帳には本件手形振出に関する事項の記載がない。この点については成立に争のない乙第一号証の一、二第四十五、第四十六号証等参照)、右手形振出に先立ち、遠藤は被控訴会社名義の手形差入を要求した前記富士石油販売株式会社の経理部長山本良雄に対し、印鑑でも盗用しなければ被控訴会社の手形は持つて来れないと告げたところ、山本は何でもよいから持つて来るようにと申向け、その結果本件手形外一通が振出され、山本はこれを遠藤から受取つたこと、並に遠藤は自己が休職処分となつたことを当時右山本及び富士石油販売株式会社の常務取締役中島弘に話したことがあること等については、当裁判所の認定も原判決と符合するので原判決の理由を引用する。控訴人が原審並に当審で提出した疎明方法にして右認定に牴触するものはこれを採用し難く、却つて当審における証人遠藤栄造の証言及び被控訴会社代表者藤島末一の供述は以上の認定を支持する資料と為すに足り、而して成立に争のない乙第五十五号証の一、二によれば遠藤が本件手形偽造の廉により、有価証券偽造同交付罪につき昭和二十八年一月十八日東京地方裁判所に起訴され、右被告事件は現に同庁に繋属中であることが明かである。以上の事実関係に基き約言すれば、本件手形は遠藤栄造が手形振出に関する何等の権限なきに拘らず、被控訴会社の代表者印等を盗用してこれを偽造し、自己の債務の為めに富士石油販売株式会社に差入れたものであつて、遠藤に手形振出の権限がないことは同会社当事者は事前にこれを諒知していたものと認むべきであつて、これが適法に振出された有効な手形であり、然らずとするも富士石油販売株式会社としては遠藤にその振出権限ありと信ずべき正当の理由を有した旨の控訴人の主張は採用できない。

控訴人は、被控訴会社が事後において遠藤の本件手形振出行為を追認して手形上の責任を負担したと主張するので更にこの点につき審按するに、当審における証人高橋政知の証言及び控訴本人田辺善人の供述、原審並に当審における被控訴会社代表者藤島末一の供述と右藤島の当審における供述に徴して成立を認むべき乙第五十三号証の一、二によれば被控訴会社の代表取締役藤島末一は昭和二十七年一月三十一日本件手形の支払場所として記載された株式会社三和銀行銀座支店に対し、本件手形は偽造による発行のもので支払義務がないとの理由を附した手形事故届を提出して置きながら、一方受取人たる富士石油販売株式会社の代表取締役高橋政知及び所持人たる控訴人に対し、「手形が不渡になれば銀行の取引停止処分を受け、会社の信用問題になるから至急重役会を開いて善処したい」とか「重役会でも自分の方の振出になつているので支払わなければならないだろうということに決つた」由を告げ、不渡処分を受けては困るから待つて呉れとて支払の猶予を求めた事実のあることが疎明される。このように被控訴会社として当時少くも本件手形上の責任を回避する意向のないことを表明した事実は十分これを窺いうべく、このことを以て仮に控訴人の主張する如く本件手形振出行為の追認に該るものと解すべきであるとしても、本件手形は被控訴人の業務に関して振出されたものでなく、遠藤栄造が自己の為にする意思を以て恣に被控訴会社の印鑑を盗用して僞造した絶対無効のものであつて、無権代理人が本人の為にする意思を以てした署名代理の場合とは自ら趣を異にし、民法第百十三条を適用する余地はなく、追認によりこれを有効ならしめる途はないものと解すべきである(大審院昭和八年(オ)第六四六号同年九月二十八日言渡判決法律評論第二十二巻商法六三四頁参照)。それ故本件手形が被控訴人の追認により有効と化した旨の控訴人の前記主張も採用の限りでない。

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