大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)355号 判決

控訴人は、右の外、連帯債務者生駒春吉において、元金中に金四万三千円の支払をなしたと抗弁するので、この点につき判断する。被控訴人が当初控訴人並びに生駒春吉を被告として本件貸金請求訴訟を東京地方裁判所に提起したところ(同裁判所昭和二十七年(ワ)第四三一九号貸金請求事件)、同裁判所は職権で右事件を調停に付し(同裁判所同年(メ)第九号貸金調停事件)右調停手続において、同年十一月二十九日被控訴人と生駒春吉との間に調停成立し、その調停条項として、(一)生駒春吉は被控訴人に対し本件貸金元金十万円、これに対する昭和二十六年十二月十六日から昭和二十七年十一月二十五日まで日歩二十銭の割合による損害金六万八千円及び訴訟費用中金二千円合計金十七万円の支払義務あることを認め、内金三万円は昭和二十七年十二月七日限り、内金十二万円は同年十二月十七日限り、残金二万円は昭和二十八年一月末日から同月末日限り一回金五千円宛四回に分割して支払うこと、(二)右以外当事者間には何らの債権債務の存しないことを相互に確認すること、その他を定めたことは、当裁判所に顕著なところであつて、当審証人生駒春吉の証言によれば、同人は、被控訴人に対し、四回に金三万円、一万円、三千円、五千円、合計四万八千円の支払をなしている事実が認められるので、これらの弁済は一応右調停条項による債務すなわち本件貸金債務の弁済としてなされたもののようであるが、さらに同証人の証言によれば、同人は被控訴人に対し、当時本件貸金債務の外、元金損害金合計約二十四万円の別口債務を負担していて、右四万八千円の弁済は悉く債権者たる被控訴人により右別口債務の弁済に充当せられ、生駒春吉は被控訴人から右別口債務の弁済に充当せられ、生駒春吉は被控訴人から右別口債務の証書の返還を受けた事実が認められる。このような場合、弁済の充当について当事者の合意があれば格別、そうでない限り、弁済を充当すべき債務の指定は弁済者まずこれをなし、弁済者がこれが指定をなさないときは弁済受領者がこれをなし、双方共これをなさないときは民法第四百八十九条以下の規定に従い法定充当をなすべきであるところ、前掲証人の証言によれば、同人は、前記金四万八千円の弁済は、悉く本件貸金債務の弁済に充当する意思をもつていたことがうかがわれるのであるが、このことを明白に弁済受領者たる被控訴人に表示したことは同証人の証言からでは認められず、また被控訴人の前記弁済の充当の指定に対し直ちに異議をのべた事跡も認められず、却つて別口債務の証書の返還をもうけているのであるから、右証書返還の際当事者間に右金四万八千円の弁済金は別口債務の弁済に充当する旨の合意が成立したものとみるか、又は弁済受領者たる被控訴人の指定により別口債務の弁済に充当されたものとみるのが相当である。ところで、前示調停条項においては、本件貸金債務の外当事者間には何らの債権債務の存在しないことを相互に確認すること、とあるのであるが、それにもかかわらず別口債務の存在していたことは厳たる事実であり、また調停債務の履行前別口債務の弁済による消滅を予期して調停条項にこのように定めることも必ずしもあり得ない事柄でもないのであるから、調停条項にこのような定めがあつたからといつて、前記認定をなす妨げとなるものではない。

以上の説明のとおり、結局本件貸金の元金中に控訴人の主張するような金四万三千円の弁済のあつたことは、控訴人の証拠によつてはこれを認めることができないので、控訴人は被控訴人に対し、本件貸金元金十万円並びにこれに対する昭和二十六年十二月十六日から支払ずみまで年一割に相当する遅延損害金を支払うべき義務ありというの外なく。

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