東京高等裁判所 昭和28年(ネ)450号・昭29年(ネ)1193号 判決
控訴人は、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す、被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする、控訴人有沢恵美子の附帯控訴はこれを棄却するとの判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)有沢恵美子は、控訴人は同被控訴人にたいし金五万円を支払うべし、との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、控訴人において、「被控訴人の主張中、原判決記載請求の原因一の(二)掲記の、本件事故によつて破壊された物はすべて被控訴人有沢政雄の所有に属することは認める。
被控訴人は、右物品中調剤台及び薬品陳列ケース各一台、ガラス戸二枚の破壊滅失の損害賠償として、右物品に代る新品設置の費用額の前者については金三万四千円、後者については金二万三千九百二十円の支払を求めているが、右の破壊された物品は、どれもこれも設置してからすでに十年にもなるものであるから、破壊当時の価額はその新設費用と同じではなく、いくら高くみても、新設費用の半額であるから、前記請求の半額は失当である。」と述べた<立証省略>ほか、原判決事実らん記載のとおりである。
三、理 由
本件において争ある事実関係は、つぎに補足するところのほか、原判決理由説示のとおり、そこに引用の証拠によつて、認定することができ、当審証人三木静雄同大林幸太郎の各証言は右認定をうごかすにたりない。
(補足)
控訴人は、本件の破壊された物品中、調剤台及び薬品陳列ケース各一台、ガラス戸二枚は十年もへた品物であり、これらの破壊による損害賠償としては、そういういわば中古品の価額を支払えば十分であるから、被控訴人が右物品を新調するに必要な金額を賠償として請求するは失当である旨主張するのでこれにたいして説明を与える。
損害賠償は、被害者の受けた不利益を除き去つて、損害が生じなかつたと同一の状態を回復させることであり、その手段は原則として金銭の支払によるとするのが現行の法制である。
物の滅失によつてその所有者に生じた損害の賠償として物の価額を支払わせるのはよくみる例であるが、常にそうだとはいえない。失われた物の価額相当の金員によつて、失われた物と同等の物を取得し得る場合又は所有者の物の所有がそれによつて財産的価値を保有する手段である場合には、被害者は失われた物の価額相当の金銭を得ることによつて損害が発生しなかつたと同一状態を回復するわけであり、すなわちこれがよくみる例なのである。
しかし、本件における前記物品は、被控訴人がその営業上使用するためにこれを所有するものであつて、財産的価値を保有する手段として所有するものでないことは弁論の全趣旨からみて明かであり、また前記物件が、かりに、控訴人主張のような中古品であるとしても、またかりに、その中古品の価額を算定し得るとしてその価額相当の金銭によつて失われた物とピツタリ同等の中古品を取得することは絶対に不能といつても、いいすぎではない、だから被害者たる被控訴人有沢政雄が本件事故によつて失つた前記物品を店舗に備付けある原状に回復するには、新品を調製するのほか方法がなく、これに要した費用はその全額が本件事故によつて生じた損害であり、しかも相当因果関係の範囲内にある損害であると解するのが相当である。
前記認定の事実(前段引用の原判決理由説示及び前記補足説示)及び当事者間に争いのない事実の全事実関係によれば、被控訴人らの本件請求は原判決において認容された部分は正当であるが、その余は理由のないこと明かであるから、原判決は相当である。
よつて民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条にのつとり主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)