東京高等裁判所 昭和28年(ネ)563号 判決
控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。控訴人が(1) 別紙目録<省略>第一及び第二記載の土地につき昭和十六年十一月一日から二十年間、但し昭和二十年九月十五日から右土地を控訴人に引渡すまでは期間の進行停止、賃料一坪一ケ月につき第一の土地は金五十三円十三銭、第二の土地は金四十八円四十九銭毎月二十八日払普通建物の所有を目的とする借地権並びに(2) 別紙目録第三の土地につき昭和十二年八月一日以降二十年間、但し昭和二十年九月十五日から右土地を控訴人に引渡すまでは期間の進行停止、賃料は一坪一ケ月につき金四十八円四十九銭毎月二十八日払普通建物の所有を目的とする借地権を有することを確定する。被控訴人は控訴人に対し別紙目録第一ないし第三記載の土地を引渡すべし。被控訴人は控訴人に対し前記(1) 及び(2) 記載の各賃貸借設定登記手続をなすべし。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上並びに法律上の主張は控訴人訴訟代理人において「原判決事実摘示に控訴人(原告)の主張事実として記載されている事項中記録第一九三丁表十一行目、『訴外斎藤善蔵が……』とある部分から同丁裏七行目『……登記をすませていたが』、とある部分までを、『訴外斎藤善蔵は(一)別紙第一、第二の土地に当る二十四坪の地上にあつた(イ)木造亜鉛葺二階家建坪二十一坪、二階二十一坪一棟を昭和十六年十一月四日売買により所有権を取得し同日その移転登記をしたので同年十一月二十五日当時の地主柳下秀雄からその敷地である右二十四坪(第一、及び第二の土地)を存続期間同年十一月一日以降向う二十ケ年賃料月額金七十円と定め、(二)別紙第三の土地四十四坪八合六勺の地上にあつた(ロ)木造亜鉛葺二階家建坪三十六坪五合一勺二階二十二坪七合五勺一棟を昭和十二年三月二十三日代物弁済により所有権を取得し同日その移転登記をしたので同年八月二十日その敷地である右第三の土地四十四坪八合六勺を地主柳下秀雄から存続期間同年八月一日以降向う二十ケ年賃料月額金百三十円と定めて賃借し、右各借地上に右(イ)及び(ロ)の各登記ある建物を所有していたが』と、また疎開命令が発せられた日時につき昭和二十年三月二十一日とあるのを昭和二十年三月二十五日と各訂正する。なお本件土地については昭和二十八年九月十二日接収解除となり被控訴人は横浜特別調達局から右土地全部の返還を受け現にこれを占有使用中のものである。被控訴人主張の借地権抛棄の事実はこれを否認する。更に法律上の釈明等として一、控訴人が賃借していた訴外斎藤善蔵所有の本件二棟の建物に対する除却命令は第七次疎開として発令されたものであつて、この第七次疎開に際しては疎開建物の敷地の借地権については当時の借地権者において何等補償を受けておらず従つて旧来の借地権は強制疎開に拘らず消滅しなかつたものである。そして疎開建物の借主であつた控訴人が借地権者である訴外斎藤善蔵から本件借地権の譲渡を受けたのは昭和二十一年三月頃で当時は罹災都市借地借家臨時処理法の施行前であるけれども、昭和二十一年九月十五日同法の施行により同日以後は同法による保護を受け前示控訴人と斎藤善蔵間の本件借地権譲渡契約については同法第九条第三条に該当するものとして同法第四条により賃貸人たる土地所有者であつた柳下の承諾があつたものとみなされる。尤も控訴人としては疎開建物除却後賃借権を譲受けたものであつて同法第十条に定める疎開建物除却後引続き借地権を有するものでないにしても、同法第三条による優先借地権譲受の効力として爾後土地所有権を取得した被控訴人にも右譲受借地権を対抗し得る筋合である。二、本件土地賃貸借の期間については昭和二十年九月十五日の接収のときから昭和二十八年九月十二日接収解除後被控訴人が本件土地を賃借人である控訴人に引渡すまでの間はその進行を停止し、右停止期間だけ当然延長せらるべきものと解するのが相当である。けだし賃貸借の期間は賃貸人の義務履行の実質的な時間的分量であつて賃借権存続の形式的期間でない。従つて賃借権発生後一定の時の経過によつて当然に賃借権は消滅せず期間として分量的に定められた時間に相当する賃貸義務の履行が完了することにより始めて賃貸借は終了するものであつて本件の如く義務履行が中絶せられた場合において債権者(賃借権者)に損害賠償請求権を認めるよりは不履行期間に相当する期間の延長即ち右期間の進行が停止せられるものと解するのが妥当の見解である。仮りに以上の見解が容れられないとしても土地工作物使用令(昭和二十年十一月十九日勅令第六三六号)第十一条により接収期間中は土地賃借権もその行使を停止せられその間期間は進行しないと解すべきである。三、賃借権の登記手続を求める請求の根拠については本件当事者に賃貸借契約に付随して登記に関する特約があると主張するものでなく、不動産の賃貸人はその債務の性質上当然賃借権設定登記に協力すべき義務あることを根拠とするものである。もとより不動産賃借権は債権であつて物権ではないが、直接に物を支配することを内容とし物権的性質の強いものである。しかるに賃借権は債権であるこの一事により第三者に対抗できないとすれば、建物保護法の保護はあるにしても不動産賃借権は常に不安定な地位に置かれる結果となる。この不安は賃借権設定の登記をすることによつて容易に除去することを得べく、賃貸人もこの登記をすることによつて格別に不利益を蒙ることなく、元来賃貸人は賃貸借継続中は賃借人をして賃貸物件を占有使用せしめる義務があり、この義務の履行は信義に従い誠実になさねばならないのであり、また賃貸目的物の所有権の移転は賃貸人の処分行為に因る外差押競売によつて生ずることもあるのであるから、これらの場合完全に賃借人を保護するため賃貸人の誠実義務履行の一作用として賃貸人は特約なくとも賃借人に対して賃借権登記義務を負うと解するのが正当である。」と述べ被控訴人訴訟代理人において「別紙目録第一、及び第二の土地を訴外斎藤善蔵が地主柳下秀雄から昭和十六年十一月一日以降二十ケ年の約で賃借したこと、昭和二十年三月二十五日本件地上建物につき強制疎開による除却命令が発せられたこと、並びに昭和二十八年九月十二日接収解除により被控訴人が横浜特別調達局から本件土地全部の返還を受けたことは認める。なお本件賃借権の譲渡には賃貸人(地主)の文書による承諾を要するとの従前の主張は承諾の有無に関する証拠方法の制限を主張したのでなく承諾があつたという主張事実を否認する事情として述べたものである。一、本件二棟の建物に対する横浜市における第七次強制疎開に際し所有者斎藤善蔵は神奈川県から建物補償費として合計金六万六千八百五十五円を受領した外別に借地権そのものの補償を受けていないことはこれを認める。元来右第七次強制疎開に際しては建物買収価格算出基準も従前の煩雑な方式を止めて一率に賃貸価格の十五倍とする徹底した戦時的方式を採用しこれに基ずいて前記補償金が交付せられたのである。そして元来建物の強制疎開は防空上の空地を設ける必要等に基き実施せられ建物除却後の疎開跡地は空地として置くのが建前であつて一般の民間人の使用は許されなかつたのであるから、かかる疎開跡地に建物の所有を目的とする借地権を残存させて置くというようなことは少くとも情況の切迫した第七次疎開当時においては何人も考えなかつたところである。従つて前記斎藤善蔵は神奈川県から前示除却建物補償金を受領したとき右建物敷地の借地権を暗黙のうちに抛棄したものと認むべく、これにより従前の借地権は消滅したのであつて、同人からこの借地権の譲渡を受けたことを前提とする控訴人の本訴請求は既にこの点において失当である。仮りに右借地権が消滅せず控訴人主張の如く罹災都市借地借家臨時処理法施行の結果控訴人において同法第三条によつて優先的に右借地権の譲渡を受け得るとしても右第三条にいう「他の者に優先して」とは対抗要件を備えずとも第三者に当然対抗し得る趣旨と解することはできない。二、控訴人は本件土地については土地工作物使用令第十一条の規定により接収期間中本件土地の賃借権はその行使を停止せられその間賃借期間は進行しない旨主張するが、本件土地の接収は昭和二十年九月十五日当時の所有者柳下秀雄より神奈川県に賃貸し神奈川県が連合軍の使用に供するという形式により行われたのであつて、右土地工作物使用令はその後昭和二十年十一月十九日勅令第六三六号(所謂ポツダム勅令)として公布即日施行せられ、本件については右使用令の発動を見ることなく前述の如く処理せられたのであるから、右使用令第十一条の適用を云為する余地はない。
と述べた外は原判決事実摘示の記載と同一であるからここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
(一)別紙目録第一並びに第二、第三記載の土地が元柳下秀雄の所有であつたところ、第一の土地については昭和二十二年五月二十三日、第二、第三の土地については昭和二十二年九月四日いずれも訴外松野増蔵に、更に第一ないし第三の土地につき昭和二十五年三月三十一日被控訴人に順次その所有権が移転せられ各その登記を経由現在被控訴人の所有に属すること、(甲第一号証の一ないし四参照)(二)右柳下の所有時代に訴外斉藤善蔵が同人から第一及び第二の土地に該る二十四坪を昭和十六年十一月一日以降期間を二十ケ年と定め、また第三の土地四十四坪八合を昭和十二年八月一日以降期間を二十ケ年と定めて賃借し、右各借地上にそれぞれ各木造二階建一棟の登記ある建物を所有していたこと、並びに(三)右斎藤所有の二棟の建物は昭和二十年三月二十五日発せられた神奈川県の強制疎開命令により同年四月除却せられたことは当事者間に争がない。
次に成立に争のない甲第四号証の一、真正に成立したと認められる同号証の二、原審証人斎藤ナカ、同中村タカの各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果を総合すると控訴人は前示建物除却当時本件土地(別紙第一ないし第三、以下同じ)の上に存在していた前示斎藤善蔵所有の除却建物二棟を同人から賃借し絵画額縁等の販売業を営んでいた事実を認められ、成立に争のない乙第六号証によつては右認定を覆すに足りない。
控訴人は昭和二十一年三月前記疎開建物の敷地であつた本件土地の借地権者斎藤善蔵からその借地権譲渡を受け同年夏頃当時の賃貸人(土地所有者)柳下に通知しその承諾を得た旨主張するから、まずその前提として前示強制疎開に際し右斎藤善蔵の有した借地権が買収その他被控訴人主張のような借地権抛棄等の事由により消滅したかどうかについて審按するに前示二棟の建物に対する除却命令は神奈川県における第七次強制疎開に際し実施せられたもので、除却建物の所有者斎藤善蔵は神奈川県から除却建物二棟の補償費として合計金六万六千八百五十五円を受領した外別に敷地(本件土地)の借地権そのものの補償を受けていないことは被控訴人の争わないところであると共に、成立に争のない甲第九ないし第十三号証当審証人前場勇次同寺山栄一、同渡辺良誠の各証言によるも右第七次疎開に属する本件建物補償費の中に借地権の補償も含まれていたものとは解し得ず、また借地権抛棄の手続をとつていなかつたことも明らかで、成立に争のない乙第八号証(証人小草秀夫の供述調書)の記載内容によつてもこの判断を左右するに足らず、その他被控訴人の提出援用にかかる全立証に俟つも従前の借地権者である訴外斎藤善蔵が右建物除却に際し暗黙のうちに借地権を抛棄したと認むべき資料は存しないから、結局前示斎藤の有していた本件土地に対する従前の借地権は前記強制疎開による建物除却にかかわりなく存続していたものと認める外はない。
次に原審証人斎藤ナカ、同中村タカの各証言及び原審における控訴人本人の尋問の結果並びにこれにより真正に成立したと認め得る甲第三号証を総合すれば昭和二十一年三月控訴人は前記斎藤善蔵から本件土地の借地権の譲渡を受けたことを認め得るが、控訴人の当初主張の如く同年夏頃地主たる柳下に通知しその承諾を得たことを認め得る証拠はないのみならず、右承諾の日時につきその後昭和二十二年の初夏と訂正主張するところあるも、原審証人柳下秀雄、同葛城東太郎、同斎藤ナカ、同中村タカの各証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果を総合するときは、昭和二十二年春頃か夏頃になつて斎藤善蔵の妻斎藤ナカ、控訴人本人及びその妻中村タカの三名は当時の賃貸人柳下秀雄のため本件土地を管理しその代理権限を有する葛城東太郎を訪ね同人に対し前示借地権譲渡の事実を告げてその承諾を求めたところ、右葛城は地主柳下は財産税の納入に困つている際であるから本件土地を買つてくれるならよいが、借地権の譲渡は困る旨を答えて婉曲にこれを拒絶した事実を窺い得べく、尤も前顕証人中村タカ、控訴人本人はその際葛城は借地権譲渡については別に異議を述べず暗黙のうちにこれを承諾して居りたゞ希望として土地を買つて呉れないかと述べた程度に過ぎないと供述しているが、当時柳下は本件土地を含む所有土地を他に売却して財産税の納入に資せんと焦慮中であつたことは前顕各証拠並びに原審証人上保慶三郎の証言によつても明らかな事実であるから、当時の情況下において特に明確な拒絶の意思を表明しなかつたという一事を以て前記借地権の譲渡につき黙示にもせよその承諾を与えたものと推認することは困難である。
ところで控訴人は前示認定の如く前記疎開跡地の借地権者である訴外斎藤善蔵と疎開建物が除却された当時の借主である控訴人間の借地権譲渡契約は罹災都市借地家臨時処理法(以下単に臨時処理法と略称する)の施行前であるにせよ同法施行(昭和二十一年九月十五日)と共に同法による保護を受け控訴人は同法第九条第三条により他の者に優先して借地権の譲渡を受け得られ且つこの場合同法第四条によつて右譲渡について賃貸人の承諾があつたものとみなされるから、控訴人はこの優先的効力を有する譲受賃借権を以て爾後本件土地の所有権を取得した被控訴人にも対抗し得る(右優先的効力として)旨主張するのである。
思うに前記斎藤と控訴人間の本件土地の借地権譲渡契約は疎開跡地の借地権者(強制疎開により旧借地権が消滅しなかつたことは前説示のとおりである)と疎開による除却建物の借主との間に成立したものであるにせよ未だ臨時処理法施行前であつたのであるから、右譲渡当時同法の適用の余地のないことはいうまでもないが、同法施行後あらためて同法第九条第三条により除却建物の旧借主であつた控訴人から疎開跡地(本件土地)の借地権者である訴外斎藤に借地権の譲渡の申出をし、その承諾を得るというような方法をとらなくとも右借地権譲渡契約につき同法施行当時の基準に照らし前各条に該当する限りその保護を受け得るとの控訴人主張の法律解釈は一応首肯し得るところである。ところが本件土地についてはさきに昭和二十年九月十五日連合軍によつて接収され昭和二十八年九月十二日に至つて解除により土地所有者に返還されたことは当事者に争のないところであるから、その間臨時処理法施行当初から同法第三条による優先的効力を有する借地権譲渡の申出をなし得る期間即ち昭和二十三年九月十五日までの間は少くとも右接収継続中であつたことは明白であつて、かかる接収土地について、臨時処理法第二条による賃借の申出または第三条による借地権の譲渡の申出をなし得るかを検討してみる要がある。
元来臨時処理法第二条または第三条は罹災または疎開(第九条による準用の場合は疎開、以下同じ)によりその住居と営業を奪われた罹災または疎開建物の旧借主等に再び従前の場所に住居と営業の場所を与えてこれを保護する緊急の必要に迫られながら、一面当時の情勢下においては旧貸家人である土地所有者または借地権者が再び建物を築造してこれを旧借主に貸与することを所期すること不可能な状態であつたところから、建物築造の資力と意図を有する旧建物の借主のため一定条件の下に借地権取得の途を拓き専らこの借地権に基ずき速かに建物を築造させてその住居の安定を確保し他面都市の復興促進に寄与せんことを目的とした臨時応急の立法であつて、決して富の再分配を目的としたものでない。従つてこの賃借申出(第二条)または借地権譲渡の申出(第三条)期間の如きもこの法律施行後一年(後に更に一年延長)と限定し、或は第二条第一項但書(第三条の場合にもその準用あり)に「……または他の法令によりその土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないときはその申出をすることができない」との制限規定を設け少しくとも右申出当時法令上目的土地の上に建物を築造することが不可能であるような場合にはかかる申出を許さない法意であることが窺われる。けだし前叙本条の立法趣旨に照らし申出当時建物の築造を許されぬ土地についてまで敢えて本条による借地権を取得せしめることは法の意図するところではないからであつて、以上の趣旨は同法第七条の規定からもその一端を汲みとることができる。
ところで成立に争のない甲第十四号証の一ないし三、同第十五号証、乙第九号証、当審証人武城修二、柳川寿孝の各証言を総合すれば本件土地に対する前示昭和二十年九月十五日の接収は当初連合軍の実力行使によつて開始せられたが、事後の事務処理手続としてその後日本政府に対する連合軍からの指令に基く調達要請書が交付せられ、右要請に応ずるため神奈川県渉外課(後に横浜特別調達局に引継がる)においては遡つて土地所有者との間に本件土地につき任意の借上契約を締結して(借地権者に対しては補償その他の方法により借地権を消滅せしむべき措置をとらなかつた)これを連合軍の使用に提供するという方法によつたもので昭和二十年十一月十九日施行せられた土地工作物使用令を適用したものでないことが窺い得られる。従つて本件の場合直接右土地工作物使用令第十一条の適用はないにしても前示連合軍からの指令に基く日本政府に対する調達要請は昭和二十年九月二日降伏文書、同日連合国最高司令官指令第一号(第一〇項)同月三日指令第二号(第四部第一項)に由来するものであることは明らかであるから、本件土地が前示連合軍の指令に基く調達物件としてその使用に提供されている以上他に特に連合軍からその使用を許容されている等特別な事情の認むべきものなき限り他の者においてこれが使用を許されないと解すべく、接収中の本件土地の上に建物を築造することは法令上不能に属するとも謂うべきである。
従つて前説示の理由により控訴人としては臨時処理法の施行によつても同法第九条第三条により本件土地につき借地権者斎藤善蔵に対しいわゆる優先的効力を有する借地権の譲渡の申出をなし得る要件を欠いていたこととなり、たとい右斎藤がこれを承諾しても通常の借地権譲渡契約の成立するは格別(斎藤の有した借地権は前示接収にかかわりなく存続していたことは前認定により明らかである)右第三条に定める優先的効力(その内容は譲受の登記がなくても譲受の時その登記をしたのと同一の効力を有し、また当該借地権の他の譲渡に優先すること)を有す借地権譲受の効力はないものといわねばならない。そして第四条の賃貸人の承諾の擬制も第三条の規定により賃借権が譲渡された場合に限るのであるから、前示斎藤と控訴人間の本件借地権譲渡についてはその適用がないこととなる。
これを要するに控訴人の前示本件土地の借地権譲受が臨時処理法第三条第四条の保護を受けその優先的効力としてその後本件土地につき所有権を取得した被控訴人にも右譲受借地権を以て対抗し得るとの控訴人の主張は理由がない。
尤も前説示の如く前記斎藤と控訴人間の本件土地借地権譲渡契約は通常の借地権の譲渡としての効力を有すること勿論であるから、この場合果して右譲受借地権を以て被控訴人に対抗し得るかの問題が残るわけであるが、右借地権の譲渡については土地所有者の承諾がないのみならず、これありとしても、臨時処理法第十条により対抗要件を具えずして第三者に対抗し得る借地権者は罹災建物が滅失し、または疎開建物が除却された当時から引続きその建物の敷地または換地に借地権を有する者に限り、控訴人の如く疎開当時存した借地権をその後譲受等特定承継により承継した者を含まぬ趣旨であること明らかであるから、昭和二十一年七月一日から五年以内に本件土地について所有権を取得した被控訴人に対しても同条により対抗力を附与せられることはないと謂わねばならぬ。
以上要するに控訴人が前示斎藤から譲渡を受けた借地権を以て被控訴人に対抗し得ることを前提としてなす本訴請求は爾余の点につき判断を加うるまでもなく失当として棄却を免れず、結局これと同趣旨に出でた原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅野次郎 坂本謁夫 野本泰)