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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)676号 判決 1953年11月21日

控訴人 原告 島田倭

訴訟代理人 発地清

被控訴人 被告 群馬県選挙管理委員会 代表者 佐藤思良

群馬県 代表者 北野重雄

群馬県議会 代表者 金子金八

指定代理人 茂木祐作 栗野喬

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の被控訴人群馬県選挙管理委員会に対する本訴はこれを却下する。

控訴人の被控訴人群馬県、同群馬県議会に対する当事者の変更はこれを許さない。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す、控訴人が昭和三〇年五月一日までを任期とする群馬県議会議員であることを確認する、訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決を求め、各被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、控訴人が群馬県議会の議員であることの確認を求める本件訴訟は、形式は確認訴訟であつてもその実質は行政処分の取消を求めるものである。すなわち、被控訴人群馬県選挙管理委員会は昭和二七年八月二九日、控訴人が高崎簡易裁判所昭和二五年(い)第七七一号略式命令の確定により地方自治法第一二七条第一項、公職選挙法第二五二条の適用を受け群馬県議会の議員たる職を失つたことを承認する旨の議決をなし、又被控訴人群馬県議会は同二七年八月三〇日控訴人に対し控訴人が右の事由により群馬県議会議員の職を失つた旨の通告をしたが、右議決及び通告は違法で取消さるべきものである。ただ本件確認の訴によつても取消と同様の目的を達することができるので本件訴訟は行政事件訴訟特例法第二条の適用又は準用を受くべき訴訟である。よつて同法第七条によつて当事者の変更をなし、当審において新たに被控訴人群馬県被控訴人群馬県議会を相手として追加すると述べ、被控訴人群馬県同群馬県議会は、いずれも被控訴人群馬県選挙管理委員会の従来の答弁を援用し、なお被控訴人群馬県代理人は、県は県会議員の身分の得喪には関係しないので、本件については当事者適格を欠くものであると述べた外、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、被控訴人群馬県選挙管理委員会に対する請求について。

先ず右選挙管理委員会が本訴の被告となることができるかどうかについて考える。控訴人が右委員会を被告として本訴を提起したのは、行政事件訴訟特例法の定めるところによるものであることは弁論の全趣旨から明らかである。しかし、右特例法が選挙管理委員会の如き行政庁を被告とすることを認めるのは、同第二条に定める行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴訟についてであつて、この種の訴訟以外の訴訟においては原則として行政庁は訴訟当事者たるの能力を有すべき根拠はない。蓋し、行政庁は権利能力の主体ではないからである。せいぜい右特例法第三条の立法趣旨から推して行政庁の行為の取消又は変更を直接に求めないでも兎に角その行為の効力を争う趣旨に出た訴訟に右特例法第三条を類推するを相当とする場合が考えられる位のものである。しかるに、本訴における控訴人の請求する趣旨は控訴人が群馬県議会議員たる地位を有することの確認を求めるものであつて、その地位は被告である選挙管理委員会の行政処分によつて得喪する関係のものではない(後記説明参照)。即ち控訴人の主張する議員たる法律関係の存否は、右選挙管理委員会の処分によつて取得し又は喪失せしめられたものではないから、控訴人の本訴請求について前示特例法第三条の規定を適用し或は類推して同委員会を被告とすべき根拠は全く存在しない。結局被控訴人群馬県選挙管理委員会なる行政庁は本訴において訴訟当事者たる能力を有しないと認めねばならないから同委員会に対する本訴は不適法として却下を免れないものといわなければならない。従つて原判決主文はこのように変更せらるべきである。

二、当事者の変更申立について。

控訴人は、当審に至り行政事件訴訟特例法第七条により当事者の変更をなし、新らたに被控訴人として群馬県及び群馬県議会の二当事者を追加したから、右当事者の変更が許さるべきか否かについて考える。元来右特例法第七条の立法理由は行政処分の取消又は変更を求める訴は、処分をした行政庁を被告としてこれを提起すべきものと定められているところから(同法第三条)、出訴期間の定めのある右の種類の行政訴訟を被告とすべき行政庁を誤つて提起したために訴を却下され、正当な被告に対し訴を提起しようとしてももはや出訴期間経過後であるため訴の提起ができないことのあることを慮りかかる不利益を救うために設けられたものである。然るに控訴人の本訴地位確認請求はなんら行政処分の取消又は変更を求めるものでないことはその請求自体明らかなところであるから、右特例法第七条は本件につきその適用をすることができないものといわなければならない。尤も、控訴人は、本件訴訟はその実質において、被控訴人群馬県選挙管理委員会がした「控訴人が群馬県議会の議員たる職を失つた」ことを承認する旨の議決並びに被控訴人群馬県議会が控訴人にした同議員失職の通告の取消を求めると同様の目的を有するものであるから、特例法第七条の規定の適用又は準用を受くべきものであると主張する。おもうに、特例法第七条の規定は、いわゆる抗告訴訟以外の行政訴訟即ち特例法第一条にいわゆる「その他の公法上の権利関係に関する訴訟」にもこれを準用するを相当とする場合はあろうが、その立法の趣旨からして同条を公法上の権利関係に関する訴訟のすべてについて準用するのは合理的でないと思われる。即ち同条は公法上の権利関係に関する訴訟でもその権利関係が行政処分により形成せられたものでその処分の効力が争われる場合でなければこれを準用すべきでないと解すべきは、同法条の立法趣旨からみて相当である。しかるに、控訴人主張の前記委員会の議決並びに県議会の通告はそれ自体なんら法律的効果を持つ行政処分でないことは原判決の理由において説明しているとおりであり、控訴人は他に行政処分の存在を前提として本件議員たる地位の確認を求めるものではないから、本件については右特例法第七条の準用をなすべきでなく、従つて控訴人の当事者の変更はこれを許容することができないというべきである。

よつて民事訴訟法第三八五条、第九五条、第九六条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 角村克己 判事 菊池庚子三 判事 吉田豊)

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